昨今、劇場では「大人の鑑賞に耐える」ではなく、はなから「大人
人気のない解剖学実験室。手が冷蔵庫を抜け出し、失った体を求め彷徨(さまよ)う。主役の“手”目線で眺めるパリ。花の都とはほど遠く、壁に落書き、通りにゴミ。地下鉄ではアクション映画よろしく、ならず者のドブネズミと格闘だ。妙に人間くさい“手”である。手は過去さえ思い出す。砂や雪、太陽を掴(つか)もうとした記憶。ダーク&ビターな物語に詩が生まれる瞬間だ。
いつしか手の持ち主も登場する。両親を亡くし冷淡な養父に酷使される孤独な青年。気がつくと手と青年の物語は一つに溶け合う。自由奔放に紡がれるドラマに終始驚かされっぱなしだ。
原作はジャン=ピエール・ジュネ映画の脚本家で作家のギヨーム・ローラン著『ハッピー・ハンド』。本作はあまりに野心的な企画で資金が集まらず、完成まで7年の月日が流れた。しかし映画祭での好評を受けネットフリックスが世界184ヵ国の配信権を取得するなど、サクセスストーリーを歩んでいる。劇場公開されるフランスでの配信は未定なので劇場でご鑑賞を。(瑞)
● クラパン監督の過去の短編はvimeoで鑑賞可能だ。
https://vimeo.com/jeremyclapin