Emilia Perez – Jacques Audiard
今年のカンヌ映画祭で審査員賞と最優秀女優賞をW受賞したジャック・オディアール監督の『Emilia Perez』が公開中だ。カンヌと縁が深いオディアールは、批評家週間に選ばれた『天使が隣で眠る夜』(1994年)で監督デビュー。それから30年、世界も映画界も無慈悲なまでに変化したが、フランス映画界の兄貴オディアールだけは、高止まりの名声を維持しつつ、涼しい顔で活躍を続ける。今回は麻薬の売人が登場するボリス・ラゾンの小説『Ecoute』から着想を得た。
性転換手術をし、アイデンティティも変えたいーー。そんな望みを抱いた麻薬カルテルのボス・マニタスは、弁護士のリタに強制的に協力をさせる。そしてほどなく、マニタスはエミリアとして第二の人生を歩き出す。女性たちの奇妙な結びつきが、予期せぬ展開を呼び起こす物語だ。
歌あり踊りありの大胆で流麗なミュージカルの顔を持ち、同時に犯罪スリラーで、友愛のメロドラマでもある。もとはオペラとして出発した企画だが、おそらくはそのために、かなりごった煮のドラマティックな作品に仕上がった。ありそうもない展開に見え、本当の感情に心揺さぶられるという映画の根源的な喜びが詰まったオディアールの新たな代表作だ。
最優秀女優賞はアドリアナ・パス、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス、カルラ・ソフィア・ガスコンの4人に授与された。中でもスペイン人トランスジェンダー俳優のガスコンは、カンヌで最も注目を浴びた。当初はエミリア役のみのオファーだったが、自らマニタス役もやりたいと切望し根気よく交渉、遂に監督が根を上げ役を獲得したという。男女差を超えた二役に扮し、監督を唸らせた彼女の演技もお見逃しなきよう。(瑞)
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