北フランスに花咲いた愛鳩文化。
家に鳩舎をつくり、飛翔のトレーニングをさせ、交配を行い、鳩の体調を整えて週末のレースに参加させる…そんなふうに鳩と共に生きる人たちのことをフランス語で Colombophile(colombo鳩 – phile愛する人)と呼ぶ。
日本語で 「愛鳩家」というよりも活動的な感じで、「鳩レースをする人」よりもっと鳩と密接に生活していたり、レースの結果も気にしながら小さな鳩の体をいたわる視線を感じる。
今や鳩レースは国際的なスポーツだけれど、この地では、かつて炭鉱夫たちが、坑内では従わなければいけない経営者たちに週末のレースで勝つことをモチベーションとして熱心に鳩レースの準備を整えたというような郷土性や、社会的な要素を背負っていたりもする。
北フランスのリールやその郊外、炭鉱が多かったベテューヌの周辺に愛鳩者たちに会いに行くと、協会で仲間たちと夕刻を過ごしたり、ゆったりと(でも気を揉みながら)午後じゅう、鳩たちの帰舎を待っていた。そんな人と人のつながりや、時間の過ごし方までをもひっくるめた「愛鳩文化」が、今日も息づいている。
恋人会いたさに鳩は飛ぶ? 鳩レースと飼主たちの裏ワザ。
鳩が飛ぶ平均速度は70km/h、速い時で100km/h。鳩レースは短いもので50km、長いもので1000kmまである。生後3カ月ころからトレーニングを始め、1才未満で200kmくらいのレースに出場する。
ライセンス手続きをすると、鳩に足環(IDの代わり)が着けられ、フランス中にある放鳩地から自分の鳩舎までの距離を示した一覧表が渡される。レースに参加する日は、自分の属する協会で鳩をエントリーして籠に入れる。トラックがその鳩を積んで放鳩地に行き、一斉に飛び立たせるのだ。
長距離ではバルセロナ大会が有名だ(例:リールまで約1000km)。 《北の地獄》の異名を持つ過酷な自転車ロードレース「パリ=ルーべ」に例えられるレースで、帰還できない鳩も多いが、この大会で上位に入れば鳩に高値がついたりするから毎年1万8000羽もの鳩が参加する。
元来の帰巣本能に加え、飼主はレース数日前にオスとメスを別々にし、鳩舎を出る前にパートナーを15秒ほどチラ見せしたり、メスの横に他のオスをウロつかせ取られる危機感を煽ったりして帰舎を急かすというワザもある。レース日から逆算して交配を行い、卵を孵化させ、ヒナに会いたい気持ちを掻き立てたりもするという。