Mon Crime
映画祭の度に新作を出すホン・サンスのように、驚くほど多作な監督がいる。フランソワ・オゾンもその一人。ほぼ年に一本ペースで新作を発表する。パンデミックが起きようが起きまいが、それは変わらない。彼の場合、スターを起用した、規模が大きめの作品もあり、かつテーマも演出も毎回変えていることに非凡さを感じる。
最新作「Mon Crime」は1930年代のパリが舞台の犯罪コメディ。新進女優マドレーヌ(ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ) が、プロデューサーを殺した罪で裁判沙汰に。友人で弁護士のポーリーヌ(レベッカ・マルデール)は正当防衛を主張するが、彼女たちの運命やいかに。
古い戯曲の翻案劇で、時代に即したシスターフッド(女性同士の連帯)映画とした。フェミニスト映画だが、点数稼ぎの女性応援映画でも、ゴリゴリの告発映画とも違う。女性側に立ちつつも、イデオロギーなるものすべてを笑い飛ばす余裕がある。
主演のふたりは昨年が飛躍の年となった俳優。テレスツィエンキーヴィッツはカンヌのコンペ作「Les Amandiers」で、マルデールは大ヒット作の「Simone, le voyage du siècle」で注目を浴びた。旬の俳優を良い時期に起用できるのも監督の才能のひとつだろう。そしてイザベル・ユペール、ファブリス・ルキーニら有名俳優が脇を固める。
矢継ぎ早に作品を発表するから、一作一作への思い入れは監督本人も映画ファンも弱くなりがちか。それゆえマイ・フェイバリットな監督にはなりにくいかもしれない。だが彼の場合、長い時間を経て、全ての作品を撮り終えた後、あらためて驚きを持って評価されそうな気がする。今頃は、すでに次作の撮影中ではないだろうか。(瑞)3月8日公開
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