呉屋 哲さん(64歳)
「これを敷いちゃうとね、前菜だけを頼むわけにはいかないって思う人が多いよね」と呉屋さんは眼に眩しいほど真っ白なクロスを指しながら話す。
1970年代半ばにフランスへ来た。パリからシャンパーニュ地方、アルザス地方で腕を磨いて「食べることに貪欲なフランス人に、自分の基本にあるアルザス料理と日本人としての感覚を合わせた料理を作ってみたい」と、90年代のはじめに今のお店をおかみさんと2人で開く。自分の店で好きなことができる、と呉屋さんはまだ誰もしていなかった時代に帆立のカルパッチョや白身、青魚などを生で出し、客たちはそれを喜んで食べた。ただフランスの食もこの40年の間に随分変わったと呉屋さんは言う。「僕が習った料理はソースが命、でも今の若い人たちはソース料理なんて食べない」。とはいえ自分の料理への姿勢は崩さないし崩せない。
子供時代から食べることが好きで、屋台のラーメン屋さんの社長になろうと思っていたのが、東京の洋食屋で働くうちにやっぱり本場へ行ってみたい、とフランスへ。様々な、良い食材に出会う度に「美味しく食べること」を探求しながら料理の道をまっすぐ進んできた。
順調にいけば、この秋に呉屋さんは店をたたむ。そのあとはまだ行ったことのないバスク地方、イタリアを食べ歩きたい。そして何よりも大好きなミイラを愛でるためにロンドンの大英博物館にももう一度足を運びたいし、エジプトへもぜひ行ってみたい、と呉屋さんの将来への夢は膨らむ。(海)
Epicure 108
Adresse : 108 rue Cardinet, 75017 ParisTEL : 01.4763.5091
アクセス : M° Malesherbes
月夜、土昼、日休 セットメニュー 32€(土曜除く) /38€