2016年に起きたブルキニを巡る議論が再燃している。今月(5月)16日、グルノーブル市議会で可決された市営プールでの「ブルキニ」着用を、25日、グルノーブル行政裁判所が「ライシテの原則に抵触する」と無効にした。ブルキニを認めるグルノーブル市長と、内務相の意向を受けて反対の立場を示すイゼール県知事(グルノーブルはイゼール県の県庁所在地)、イゼール県を擁するオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏で論争が続いている。
グルノーブル市の決定に、県と地域圏、内務省が反対。
5月16日、グルノーブル市議会は、ほぼ全身を覆うムスリム女性用の水着「ブルキニ」の市営プールでの着用を認めるプール規則の改正を可決した。同市議会では、エリック・ピオル市長(ヨーロッパ・エコロジー=緑の党:EELV)が、男女を問わず、長さや形も問わず、水着用の布地で作られた体に密着した水着ならよい、とプールの水着規定改正案を提出。賛成29票、反対27票の僅差で可決された。これによって6月1日から、顔と手足以外のほぼ全身をおおうムスリム女性用のブルキニ着用が可能になるとともに、女性の「モノキニ」(トップレス)も、ショーツ型や、男性の上半身をおおう水着もOKになった。
しかしこの改正案が市議会に提出されたとたんに、2016年のようなブルキニ論争が全国レベルで再燃。ダルマナン内相は17日、「共和国の原則に反する共同体主義の挑発」とグルノーブル市の決定を非難し、イゼール県知事に改正規則を無効にするべく行政裁判所に訴えるよう指示した。
共和党幹部のシオティ国民議会議員は「ライシテ(非宗教)」の名において国会にブルキニ禁止法案を提出すると発言。オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏議会のヴォキエ議長(共和党)はライシテ原則と公共サービスの中立性に反する決定だとして、グルノーブル市への地域圏の助成金を停止すると脅すに及んだ。グルノーブル市議会でも右派はもちろん、連立与党のEELV、服従しないフランス(LRI)、共産党からも、ブルキニはムスリム女性への抑圧だとの声があり、13人が反対に回っていた。
ピオル市長は、「これはフェミニズム、健康、ライシテの闘い」であり、女性に真の服装の自由を与えるものと反論。ライシテは信教の自由を保障するもので、トゥーボン人権擁護官も同様の見解を示していると反撃した。
夏になると盛り上がる愚論
2016年夏に8市町村が海岸でのブルキニ禁止条例を出したことに対して、イスラム嫌悪撲滅団体などが人権擁護官に提訴した件については、最終的判断は下されていないが、同様の訴えでは18年と20年に「ブルキニは水着として作られており、衛生的にも安全性にも問題はない」との意見を出している。
ピオル市長はさらに、レンヌ市でもブルキニは許可されているが問題化していないと指摘した。レンヌ市長は、確かにブルキニで泳いでいる人はいるが、ダイビングプールの新設に伴って2018年に水着規定を市議会満場一致で改正したもので、グルノーブルの例と同一視されて政治的議論に巻き込まれるのは心外、と迷惑そうなコメントを仏紙に寄せた。
日本では日焼けや怪我防止などのために長袖やレギンスの「ラッシュガード」と呼ばれる水着が海岸や屋外プールで利用されているそうだが、フランスでは「ブルキニ」というとなぜか過剰反応が目立つ。ブルキニの許可についてグルノーブル市と19年から交渉を続けてきたムスリム女性団体の一人は、とにかくプールを使用したいだけで、モノキニの女性がいても問題ないと、インタビューに答えていた……。
今回グルノーブル市で一旦許可されたブルキニ着用が覆った根拠は、ブルキニにはヒラヒラと水中に浮く部分があり、「体に密着しておらず」ルール違反、というものだった。(し)