2度のクルド人殺害事件を糾弾する大規模デモ。
1月7日(土)パリで、2013年のクルド人殺害事件の10周年を記念・追悼する大規模なデモが行われた。主催者の発表によると、全国そして近隣諸国からクルド人ら約2万5千人が参加(警察発表は約1万人)。昨年12月にもクルド人3人がパリ10区で殺害された事件もあったことから、「真実と正義を!」と仏当局を糾弾する声が多く上がった。
昨年12月23日の事件は、パリ10区のクルド文化センター付近で起きた。元仏国鉄(SNCF)運転士のフランス人男性(69)がピストルを発砲し、クルド人亡命歌手ら男性2人とクルド女性運動の責任者である女性の計3人が死亡、そのほか3人の男性が負傷した。
犯人は床屋の店員に取り押さえられて逮捕。調べに対し、自宅に押し入られた2016年以来、外国人を嫌悪するようになり、事件の朝、外国人を殺そうとパリ郊外サンドニに行ったものの人通りが少なかったので自宅に帰ってからクルド文化センターに行って犯行に及んだと供述した。男性は、人種や民族を理由とする殺人罪で26日に被疑者となり勾留されている。
事件直後、怒った在仏クルド人が現場近くに集結し、「(トルコ首相)エルドアンは殺し屋」などと叫んでデモ。ゴミ箱に放火するなどして治安部隊が出動する騒ぎになった。翌24日にもレピュブリック広場に数千人が集まり、仏当局がクルド人の安全を守っていないと抗議するデモがあり、一部の暴徒が店舗のウインドーの破壊、車への放火、投石におよび、治安部隊が催涙弾で応酬する事態になった(11人拘束)。クルド人コミュニティは事件直後から、事件はトルコ当局が画策した暗殺とし、テロ容疑での捜査を要求した。
「トルコよるテロ」か「外国人嫌悪」の犯行か。
その背景には、2013年1月9日に、同じクルド人情報センターでクルディスタン労働者党(PKK)の共同創設者、PKK青年部責任者らPKKの幹部女性3人が暗殺された事件がある。トルコ人男性が逮捕されたものの、17年1月の裁判を数週間後に控えてがんで死亡し、裁判は取り止めに。捜査では、トルコ情報機関の関与が浮上したが証拠がなく、19年に再開された捜査では、ベルギー捜査当局から男性に暗殺を指示した人物の情報が提供されたが、仏情報部による盗聴記録が国家機密として開示されず、捜査は進展していない。
欧州連合(EU)がPKKをテロ組織と認定している上に、フランス=トルコ間の2011年のテロ撲滅のための安全保障協力合意、つまりPKKのテロと闘うための両国の協力関係があるためにクルド人は仏当局を信頼していないと仏紙は分析する。そうした事情からクルド人コミュニティは、フランスは13年の事件の捜査を停滞させ、国内クルド人の運動を抑圧し、その安全を守っていないと批判するのである。
襲撃された文化センターが単なる文化センターではなく在仏クルド人民主主義評議会の本部であり、事件の日に13年の事件の10周年追悼行事について話し合いが予定されていたことを考慮すると、偶然の一致というにはあまりにも要素がそろいすぎている。だが、クルド人社会の言い分を裏づける要素は捜査当局の発表には皆無だ。闇に包まれている真実は、いつかは明らかになるのだろうか。(し)