パリ・オペラ座地区で5月12日夜、刃物を持った男が通行人を襲い、1人が死亡、4人がけがをした。現場は和食レストランや日本人経営の商店などが集まる日本人街すぐ近く。犯人はその場で警官に射殺されたが、当局の、国家治安を脅かす人物リスト(Fiche S)に載っていたことがわかり、捜査に落ち度があったのではとの批判もある。
男は21時前から、刃渡り10cmのナイフで通行人を襲い始めた。通行人が付近をパトロール中だった警官に知らせ、10分ほどで警官が男を発見。警官はスタンガンで男を取り押さえようとしたが襲いかかられ失敗。同行していた研修中の別の警官が射殺した。約20分間の凶行で29歳の男性が死亡、4人がけがをした。
犯人は20歳のカムザット・アジモフ。ロシア連邦のチェチェン共和国で生まれ、ストラスブールで育ち、14歳で母親とともにフランス国籍を取得。犯罪歴はないが、イスラム過激派グループと親交があり、2016年から当局のリストに載っていた。「イスラム国(IS)」に合流しようとした女性の周辺人物として昨年当局から聴取も受けていたが、特別な危険はないと判断されていた。事件翌日、ISは、アジモフとされる男がISに忠誠を誓うビデオをインターネット上に公開した。
当局のリストに載っていた人物が、またもテロ事件を起こしたことを受け、保守派共和党や、極右国民戦線は、リストの有効性を疑問視し、リストに載った人物の収監や、外国籍の場合は国外退去処分にすることなどを求めている。さらに国民戦線党首マリーヌ・ルペンは、フランスのチェチェン出身者に対し懐疑的な発言をしている。
5月14日付のル・パリジャン紙は「今回の犯人もリストに載っていた」との見出しで報じた。AFP通信によると、90年代以降の紛争を経て、ストラスブールなどに約15000人のチェチェン出身者が暮らしており、イスラム国に合流したフランス人の10%がチェチェン出身者。チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は「アジモフはフランス育ち。彼が犯罪者の道を選んだ責任はフランスにある」と発言した。
当局のリストに載る人物は有罪判決を受けた訳でなく、右派の主張するように疑いだけで罰することはできない。だが現状のシステムでは凶行を防ぎきれていないことも事実だ。FicheSリストの有効性は前政権時代から議論されているが、具体的な改善が早急に求められている。(重)