Ross Lovegrove – Mutations-Créations
イギリスの工業デザイナー、ロス・ラブグローブ(1958-)の名前を知らなくても、日本航空、ヤマギワ照明などで彼のデザインを目にした人は多いだろう。彼の面白さは、動物や植物のアナトミーという、生物の根源の部分を、その対極にあるかのような最新のテクノロジーを使ってデザインに取り入れている点にある。
会場の真ん中にある曲線のガラスで仕切られた小部屋には、動植物の解剖図から起こした、彼の発想の源となるデッサン帖が、ゾウの頭蓋骨のまわりに置かれている。太古の昔から地球上にあるイチョウの葉から着想したテーブル、動物の骨を基にデザインした椅子、DNAの二重らせん構造を思わせる階段などの製品のおおもとにあるのが、生物の構造だとわかるように展示されている。見ているうちに、デザイナーの頭の中を旅しているような気分になる。彼のデザインは、有機的でありながら、具象ではなく抽象的だ。流線型の表面に小さなくぼみがある「コスミック」シリーズの照明は、抽象彫刻のようだ。
エコロジーも彼の哲学の中心にある。車体にクリスタル付のソーラーパネルを貼り、自家発電で走る車など、エネルギー消費を抑えた製品を考案した。再生エネルギーが当たり前になっていく社会で、ラブグローブのデザインはますます冴えていくだろう。(羽)