パリ北側の郊外で2月初めに発生した、警官による黒人青年への性的暴行事件に対する抗議活動が続いている。デモ隊と警官隊の衝突も相次いでいる。
事件は2月2日白昼に発生。オルネ・ス・ボワで、22歳のテオさんが4人の警官から職務質問された際に、殴る蹴るなどの激しい暴行を受け、催涙ガスを噴射された上、肛門に警棒を突き刺された。一部始終が住民の携帯電話や防犯カメラで撮影されていた。
テオさんによると、警察署に連行される車内でも、警官に「ネグル」「バンブラ」(黒人に対する蔑称)「あばずれ」などとののしられ、暴行を受けたという。テオさんは病院に搬送され、肛門に10センチを切る全治2カ月の重傷を負っていると診断された。
当局は、警官の1人を性的暴行、3人を暴行容疑で事前調査を開始した。警官は、職務質問は薬物売買の取り締まりのためで、暴行は「事故だった」と説明しているという。
フランソワ・オランド大統領は事件から5日後にテオさんを見舞い「司法の裁きが必要だ」と声をかけたが、衝撃的なニュースに、住民たちの憤りは収まらない。各地で抗議活動が相次ぎ、2月18日にはパリのレピュブリック広場で2000人がデモを行った。デモ隊から投石を受けた警官隊が、催涙ガスを噴射するなど衝突も起こっている。夜間には、車両や商店が放火されるなどし、2月中旬までに250人以上が当局に連行された。
暴力的な抗議行動が起こっているのを受け、テオさんは病床から「争うのはやめ、連帯を」と訴えた。郊外では地域の母親たちがデモ隊と警官隊の仲裁にあたるなどの活動をしているが、緊張した状況は続いている。
さらに、テオさんの友人の黒人青年も、事件の1週間前に、テオさんに暴行した警官を含む3人の警官から、職務質問を受けた際に殴る蹴るなどの暴力を受け、けがをしていたと報道された。職務質問の理由は不明。この青年も被害届を提出、事前捜査が始まった。
国が「優先」地域に指定する郊外地区では、失業率や貧困世帯の割合が全国と比べ高い。これらの地域の住民たちは、警官による暴力を伴う理不尽な職務質問や、差別的発言を長年指摘しており、テオさんに起きたことを他人事とは感じていない。ル・パリジャン紙は「どうやって火を消すか」という見出しで解決策を探ったが、現政権も、2カ月後の大統領選の候補者らも、打開策は打ち出せていない(重)。