1月29日に120万人が投票した左派予備選挙決選投票は、ブノワ・アモン59%、ヴァルス前首相41%で、オランド政権に「ノー」を突きつけた。
アモンはオランド政権の教育相だったが、2014年にその座を蹴って反旗を翻した元閣僚。ヴァルスは、社会党支持者からも評判の悪いオランド政権の首相だったことの責任をとらされた形だ。オランド大統領は失業問題を解決できず、社会に不安と不満が充満するなか、国民は新風を渇望している。
社会党内左派アモンが提案するのは、既存の保障制度をくつがえすベーシック・インカム(基礎所得保障)。所得や年齢に関係なく、月750 ユーロを全国民に支給する。最初は18〜25歳の若年層に限り、失業やホームレスにならずに安心して暮らせるようにし、段階的に全国民に広げる。それには総額4000億ユーロかかるという計算に、他候補はユートピア的だと不信の目を向けた。だが、社会保障を大改革するためには、18世末に考案されたベーシック・インカムの制度が、不可能とは言えないのだ。産業・労働のIT化により週32 時間制(4日制)にし、ライシテの解釈や、ムスリム習慣(スカーフ着用など)に柔軟に対応し、難民受入れにも積極的に取り組み、大麻の合法化などの理想を掲げ、社民リベラル路線を貫くオランドの後継者ヴァルス候補に差をつけた。
しかし左派候補はアモンの他に、「左でも右でもない」前経済相マクロン(ロワイヤルも支持)がいる。彼は社会改革の「救世主」のようにEn marche! 運動を掲げ、無所属で立候補。そして、21世紀のジャン・ジョレスを演じ、共産党と共闘するメランション左派戦線候補。このように3派に分かれ、左派候補の誰も大統領選決選に残れるはずがない。
共和党候補フィヨンは、妻のペネロープ架空雇用疑惑の渦に足をとられ、候補交替の声も上がった。世論の批判に耐えられず、2月6日フィヨンは記者会見で謝罪したが、妻の受け取った給与は返済しないそう。
この疑惑に狂喜するのは国民戦線党マリーヌ・ルペン。国民に負のイメージを与えたフィヨンがルペンとの決選に残ったら2002年大統領選決選の二の舞になる。父ジャン=マリを決選で阻むために左派支持者は鼻をつまんでシラクに投票したように、フィヨンに投票せざるをえないだろう。米国でトランプが大統領になれたようにマリーヌ・ルペンも大統領になれるかもしれないのだ。隣国で伸びるナショナリスト系ポピュリストの波がフランスにも押し寄せる。(君)