母のマリー(ナターシャ・レニエ)と二人暮らしの高校生、ヴァンサン(新人、ヴィクトール・エザンフィス)は内向的で、同級生たちからは変わり者と目されている。彼の最大の関心事は見知らぬ父のことだ。母は「あなたに父親はいない」と言いつづけ、決して父のことを明かさない。母の目を盗んで父なる人の存在を突き止めたヴァンサンは、彼に接近する。その男、オスカー(マチュー・アマルリック)はパリの出版業界の実力者で、スノッブ、金持ち、エゴイスト、実にいけすかない奴だった。
“愛”に対して不感症なオスカーは、かつての恋人マリーが身籠ったことを知ると、ポイ捨てしたのだ。ヴァンサンは子供じみた方法でオスカーへの復讐を試みるが未遂に終わる。その時、偶然に出くわしたオスカーの弟、ジョゼフ(ファブリツィオ・ロンジョーネ)は、兄とは正反対のイケてる男だった。ジョゼフはヴァンサンの迷える心を静め、ヴァンサンも彼を信頼し、不在だった父親代わりのような存在になってゆく。ヴァンサンはマリーとジョゼフを引き合わせる。息子の企みは成功し、母と代理父の間に良い関係が芽生えてゆく…。
ユージェン・グリーン監督の、この映画の題名は 『Le fils de Joseph / ジョゼフの息子』。もうお分かりでしょうか?マリー(マリア)のお腹から父なくして生まれた子は、養父ジョゼフ(ヨセフ)に育てられる。つまりヴァンサンはイエス・キリストなのか?確かに、映画後半のヴァンサンには人を見抜く力が備わっている。
ユージェン・グリーンの映画のタッチは、一言でいうとブレッソン風。虚飾を削ぎ落としたストレートな表現で核心に直進する。分かりやすく観ていて爽快感がある。もちろんカメラワークもミニマル主義。クラシック音楽の挿入の仕方がまた効果的だ。同監督の前作『La Sapienza』も実に美しい映画で忘れがたい。筆者にとって、ユージェン・グリーンは見逃してはならない監督のひとりだ。ナイーヴ・アートの魅力といったら語弊があるだろうか?共鳴者を募る 。(吉)