●”Règlement de comptes (The Big Heat)”
『メトロポリス』、『M』などで知られるフリッツ・ラングが、1953年に撮った傑作がニュープリントでリバイバル。
暗黒街の実状に迫ろうとした新聞の連載をベースにしたオリジナルシナリオで、ある警察官の自殺に不審を抱いたバニオン警部が、暗黒街と警察の腐敗したつながりを次第に暴いていく、というストーリー。『LA コンフィデンシャル』を思わせるが、そこはフリッツ・ラング。映像的魔術(オープニングでの拳銃のアップ、杖をついた老タイピスト、廃車置き場のフェンス越しの会話、顔半分を覆う白い包帯、二人の女が着るそっくりのミンクのコート)やオフ・サウンドのみごとな使い方(自殺の銃の音、バニオン警部の妻が殺される時の車の爆発音、熱いコーヒーをぶっかけられた女の叫び)などに息をのむ。大好きな『LA 』も影が薄くなってしまった。一見端正ともいえるモンタージュから、社会の腐敗した部分がじくじくと浮かび上がる。
おのおののキャラクターを掘り下げていく名人芸も素晴らしい。家族をこよなく愛し、模範生だったバニオン(グレン・フォードが適役)が、妻の爆死から個人的復しゅうにおぼれていくあたりもいいが、グロリア・グレハム演じるギャングの情婦デビーは、ボクの心の中をいつまでもさまよいそうだ。白く大胆な胸あきのドレスを着て陽気にカクテルを作っている時のセクシー度、半分焼きただれた顔を持ちながら、「顔半分だけでもやっていけるわよね」と、ほれてしまったバニオンに語りかける時の切なさ。彼女が死んでいくラストには、隣りに座っていた男もこらえ切れずに涙。(真)
Filmothèque du Quartier Latin(9 rue Champollion 5e)で公開中。