この夏、放浪の民 (gens de voyage) に対するサルコジ大統領の規制策が表面化してきた。大統領はすでに内相時代の2003年に、無許可の空き地占拠に対しては禁固最高6カ月と罰金3750ユーロ、さらに車両の没収、3年間の運転免許停止など、彼らの追い出し政策を打ち出していた。
7月16日深夜に検問を突破しようとした放浪民の若者が憲兵に射殺されたことに怒った放浪民コミュニティーがサン・テニャン市(ロワール・エ・シェール県)の憲兵隊兵舎や市街を破壊する騒動に発展。これを受けて、大統領府で28日に「ロマ人と放浪民」に関する対策会議が開かれ、違法キャンプの解体、「公序良俗に反する行為や不正行為」を働いた者のブルガリア、ルーマニアへの強制送還や、ロマ人が両国に留まることを促進する雇用対策、同化対策などの措置を両国に促すなどの方針が決まった。グルノーブルでの若者と治安部隊の衝突を受け、当局を攻撃する移民系フランス人の国籍を剥奪することも含めた治安対策の強化策を大統領が30日に発表した動きとも連動している。
これが合図であるかのように、30日からロマ人らの違法キャンプの解体が開始され、8月半ばまでに51カ所を解体。10月までに計150カ所の違法キャンプの解体や不法占拠の排除が予定されている。さらに、8月19日には93人、20日には130人のロマ人がブルガリア、ルーマニアへ強制送還された。オルトフ内相は、8月末までに計850人を送還する予定と発言している。両国への送還は今年に入って8030人に上るというから、ロマ人送還も今に始まったことではないのだろう。
こうした仏政府の動きに国内の左派政党や人権擁護団体、さらにブルガリア、ルーマニアは厳しい非難の声を上げている。ルーマニア外相は18日、「外国人を排除する行為」と仏政府を批判。欧州委員会も「フランスは欧州連合国民の往来自由の原則を遵守すべき」と釘を刺した。しかしながらピエール・ルルーシュ欧州問題担当相は2011年に予定されているブルガリア、ルーマニア両国のシェンゲン協定加盟の見送りにすら言及し、緊張関係が高まっている。
ロマ人はルーマニアに53万人~250万人、ブルガリアに80万人いるとされ、その生活習慣から正規雇用に就くことが難しく、社会から疎外されている。この2国のほかにもスペイン、ハンガリー、チェコなど欧州各国に広く居住。フランスにも50万~130万人のロマ人が居住しているといわれ、そのほとんどはフランス生まれのフランス国籍だ。今回の国外退去措置はあくまでも外国籍のロマ人を対象にしているとはいえ、ロマ人はコミュニティーへの弾圧と受け取ってしまうだろう。
不況による雇用や治安の悪化といった社会問題を移民問題に転嫁し、外国人に対する締め付けをますます強めようという、治安改善をうたい文句にしたサルコジ政権の大衆迎合策ととられても仕方がなさそうだ。(し)
イラスト:Postics