●Isabelle Faust “J.S.Bach : Sonates & Partitas pour violon seul”
イザベル・ファウストのバイオリンを最初に聴いたのは、シャンゼリゼ劇場で演奏されたメシアンの『世の終わりのための四重奏曲』でだった。彼女の演奏のとりこになったボクは、その後CDで出たベートヴェンの協奏曲とソナタでまたまたうなった。そして、今度はバッハの『無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータ曲集』。ヒラリー・ハーン同様に後半の3曲だけを演奏しているのだが、この曲集の白眉(はくび)ともいえる『シャコンヌ』を含むパルティータ2番も入っているだけに、腹を据えた選曲だ。
その『シャコンヌ』を、愛聴してきたナタン・ミルシテインの演奏と聴き比べてみた。ミルシテインの演奏はというと、ビブラートをきかせた奏法から生まれるポリフォニーのシンフォニックな響き、各フレーズのアタックにもメリハリがあり、バッハの曲を通して、演奏者の緊張感溢れる心が表出されている。
ファウストの演奏は、高度な技巧に支えられ極度に困難な重音奏法も力まずにこなし、やや早めのテンポのせいもあるが流麗。特筆したいのは、軽い弓を使ってビブラートを抑えた演奏のおかげで、二声や三声のポリフォニーの各声部が、透明感を持って浮き上がってくることだ。フレージングも力むことがなく、とても自然で、バッハの歌が沈黙から立ち上がってくる瞬間に立ち会っているような感動にとらえられる。ソナタ3番のアダージョ、パルティータ3番のプレリュードやガヴォットも比類がない。(真)
Harmonia Mundi発行。20€。