2カ月前にパリのジャン・ブワン競技場はラグビー・トップ14のスタッド・フランセの試合を観に行った。土砂降りのどろんこ試合でトライなしだったが、ボクらの目を引きつけたのは、マチュー・バスタロ選手(21)。その相手の守備ラインにスピードを失わず果敢に飛び込んで行く闘いぶりは圧倒的だった。
ニュージーランドのウェリントンで、昨年6月21日午前3時ごろ、南半球遠征のフランス代表に加わっていたバスタロ選手が、ホテル前でタクシーを降りたところを暴漢に襲われ負傷したというニュースが広がる。ところがホテルの監視カメラには、午前5時ごろに戻ってきた無傷の彼の姿が映っているだけだったから、大騒ぎになった。早めに帰国していたバスタロ選手は「襲われたというのはうそで、酔っぱらって部屋のテーブルに頭をぶつけてけがした」と告白。その後、同選手は入院し、「一時は死ぬことも考えた」という。
2月6日から開催された欧州6カ国対抗ラグビーに、リエーヴルマン監督は、「まだ時期尚早」という周囲の声を押し切ってバスタロ選手を復帰させる。それに応えるかのように、バスタロ選手は、初戦の対スコットランド戦で2トライ! フランス代表の全勝優勝に貢献した。
最終戦の直後、バスタロ選手は重い口を開いた。「過去のことを話すつもりはないけれど、ニュージーランドでのことを今でも考えるし、よくここまで復帰できたと思う。この感動を表現する言葉が見当たらない」。来年ニュージーランドで開催されるワールドカップで、これ以上の感動がやってくることを期待しよう。(真)