●Alexandra David-Néel
アレクサンドラ・ダヴィッド=ニールは、1868年にパリ近郊サンマンデに生まれ、18歳の時には「遠くへ行きたい」という気持ちにかられ、南仏経由でベルギーからスペインを単独旅行。成人してパリへ戻りアナーキスト運動に参加したり女優として舞台にたったりもしたが、旅への憧れを振り切ることができず、インドで出会ったチベットの音楽に魅せられ、その後彼女の人生はチベットとヒマラヤの周りに築き上げられる。
この戯曲は、晩年フランスのディーニュ・レ・バンに腰を落ち着けた彼女の日々を描いている。秘書とはいえ召使いであり家政婦でもある若い女性と二人きりの生活。老女は 日々つのる新たな旅や冒険への欲望と、かつてほど自由にはならない身体の間で葛藤する。若い女性は、時には子供をあやすように、時には八つ当たりされて涙を隠しながら老女と生活を分かち合う。ある日、若い女性は「運命の男性に出会ったので本日限りで辞めさせてください」と老女に懇願。素直に若い女性を祝福しながら老女は「出て行くときには物音をたてないように」と頼む。冷酷で一人よがりに見えた老女もどこかで若い娘に頼っていた、人間的な一面が垣間見える。数々の著作を残し「著名文化人」だった老女は、栄光と老い、そして自らの欲望の中で苦悶を続ける。その老女に着かず離れず過ごす若い娘の気持ちはいったい…。
若い娘はダルデンヌ兄弟監督の『Rosetta』で映画デビューしたエミリー・デュケンヌ、老女役はずっと前衛劇で活躍してきたエレーヌ・ヴァンソンで、みごと。演出はディディエ・ロン。(海)
Théâtre Petit Montparnasse :
31 rue de la Gaîté 14e 01.4322.7774.
火-土21h、日マチネ15h。18-32€。