「好きになってはいけない人を好きになってしまったのかもしれない」。豪快な笑い声で辺りをおおらかな気分にさせるツァンさん。不法滞在の中国人のための法廷通訳だ。ジョエルさんは一見物静かだが、抜群に話し上手な弁護士である。 出会いから数カ月たって、将来を見据えたころ、「伝統主義派のユダヤ人家庭に育った僕にとって、異教徒との恋愛は家族論争を巻き起こすきっかけとなったよ」とジョエルさん。ツァンさんは、大みそかの晩、「1週間あげるから、あなたが決めるのよ。もし決心がつかなかった時には、私が去るわ」と言い放った。半年後、親の反対を押しきり市役所で結婚した。その後、会うだけならと両親が折れる日が訪れる。ある晴れた日曜の朝、ホテル・スクリブでの一幕。開口一番に、母は言った。「中国のように広大な多民族国家からやってきたあなたが、なぜ少数民族の私たちに同化しようというの?」。そして息も切らさぬスピードで、ユダヤ人が歩んできた不運な歴史を涙ながらに話して聞かせた。 しかし歩み寄る前に、家族を一瞬にして結びつけたのは祖母との出会いだった。「家族で一番敬虔な祖母には、僕たちの結婚を長らく内緒にしていたんだ。心臓発作をおこしかねないからって口止めされていたんだよ。でも祖母がツァンを見た瞬間、目には見えない絆が結ばれた。これが僕らの家族を結びつける鍵になったんだ」と微笑むジョエルさん。祖母は言った。「これから毎週、安息日にはツァンも連れていらっしゃい。一番大切なのはあなたたちが幸せなことよ」。それを境に彼女は大学でユダヤ教とヘブライ語を学び、シナゴーグで改宗の準備を始めた。ユダヤ教では、母親がユダヤ人か改宗した信者でなければ、子供はユダヤ人とみなされない。「ユダヤ人としてのアイデンティティあっての彼だから、それならこっちから飛び込んでやろうと思ったのよ」。市役所での結婚から2年後、シナゴーグに中国やイスラエルから親類が集り、結婚式が行われた。2月には初めての赤ちゃんの誕生を、二人して首を長くして待っている。(咲) これから相手に期待したいことは? 前回のバカンスは? 夢のバカンスは? 最近二人で観た映画は? お気に入りのレストランは? カップルとしての満足度を5つ星でいうと? |
2年前、ツァンさんの故郷、長江の三峡ダムで記念写真。 ヴェネチアで見つけた「太陽と月」の壁飾りは二人の愛のシンボルです。 |