1999年、リビアのベンガジの小児科病院でエイズ菌を広め430人余の児童を感染死させたとして、ブルガリア人看護師5人とパレスチナ人医師が拷問により自白を強いられ死刑宣告を受け、8年間苛酷な獄中生活を送ってきた。 彼らを解放するため7月12日、24日と、サルコジ大統領の密使としてセシリア夫人とゲアン大統領府官房がリビアに飛び、元首カダフィ大佐と交渉。24日、救世主のごとく看護師らをブルガリアに帰還させた。その翌日25日、今度はサルコジ大統領自身がトリポリに馳せ参じ、カダフィ大佐と軍事・民間原子力産業(海水脱塩設備・原発他)協定に調印! この早技! 大統領の密使役が、大統領決選投票日に棄権したセシリア夫人のイメージ挽回のため(?)とはいえ、社会党から引き抜いたクシュネール外相も無視し、大統領夫妻でカダフィ大佐と折衝? 大統領夫人とはいえ、野党側は「特使セシリア夫人」への国会喚問を要請したが大統領は「憲法に反する」と突っぱねる。が、看護師らの解放と交換条件にフランスがリビアとの軍事・原子力産業協定という甘い汁を吸うのは隠せない。リビアはウラニウム産出国だし。 テロ策謀国〈ならずもの国家〉と見なされるリビアの政治的「人質」となった看護師らの解放工作は、5年程前からEU数カ国が推し進めてきた国際問題だ。88年スコットランド上空でのパンナム機爆破、89年ニジェール上空でのUTA仏機爆破にリビア人関与の疑いで、92年以来リビアは国連制裁下に。同国は03年に核兵器、04年に生・化学兵器を放棄し、国際社会に片足踏み込み、元首の子息サーディ・カダフィ氏が欧米への接近姿勢を強めている。 児童らのエイズ感染は、現地の医療施設の衛生問題が原因とEU視察団は断定。施設改良のためEUはリビアに250万ユーロを援助している。さらに看護師らの解放条件として、彼らがリビア当局関係者に対する国際裁判を放棄することや、EU諸国とのすべての借款契約を解除せよ、とリビアは見返り条件をつり上げる。その上、フランスの友好国カタールがエイズで死亡した児童に1人100万ドルの賠償金を支払うという裏取引もあったとされている。 サルコジ大統領による秘密裏の外交戦略がさらに密になっていきそう。セシリア夫人は大統領夫人として何ら法的地位・役割を持たないが、夫、サルコジ大統領の最良の「人道的密使」として外相の上を行きかねない。しかし看護師らの解放のため数年前からリビアと交渉してきたドイツや英国、イタリア他、EU数カ国をツンボ桟敷においたまま、リビアとの軍事・技術協定をかっさらうサルコジ大統領の独断外交に、はたして他国が黙っているだろうか。(君) |
ブルガリア人看護師とパレスチナ人医師が解放された翌日、サルコジ大統領は、フィヨン首相やクシュネール外相を脇において記者会見。得意満面、セシリア夫人を賞賛。 |