「ノートルダム寺院に生息するモリフクロウや、ヴァンセンヌの森のヨーロッパコマドリのことを知っている?」というのはボリスさん。その姿や形はもちろん、繊細な鳴き声に魅せられて、パリ中のバードウォッチングの名所を歩き回った。ノータイにノージャケット、オペラ座界隈の金融街に勤める銀行員でありながら、そのちょっと「お堅い」イメージとは違う。
根っからの凝り性。世界最古の言語といわれるサンスクリット語を学び、ギリシャの古代遺跡や、浮世絵をはじめ日本の伝統芸能にも造詣が深い。1969年、パリの南郊外で数学教師の家庭に生まれた。ポリテクニック(理工科大学)を卒業後、投資管理部門のアナリストとして、BNPパリバ銀行に勤めて12年。「数学を応用して、統計の分析をするのが、僕の主な仕事なんだ」という。
文字通り「朝から晩まで息が詰まるような」日常生活。だからこそ週末は180度気分転換したい。「小さくてもガーデニングや家庭菜園ができるテラスや庭が住居選びのポイントだよ」。ボリスさんが長年暮らしたのは5区の東エリア。四季を通して様々な草花が咲き誇り、熱帯植物が生い茂る大温室もある植物園の近所だ。そこに期限付きで、小さな庭付きの一軒屋を借りた。「毎朝小鳥のさえずりで目覚め、バードウォッチングの楽しみを知ってから、野鳥の虜になったんだ」。とはいっても、自然保護に関心をもつエコロジストといった風ではない。「夏は自宅のテラスで、冬は暖炉でバーベキューするのが定番。近所から苦情がきたこともあったけど…」と照れくさそうに笑う。週末の楽しみの一つは、趣味の料理。少ない時間をやりくりして通った、料理教室での腕の見せ時である。
そんなボリスさんは、5区での二度の引越しを経て、ナシオン広場の近くに素晴らしい住まいを見つけた。「それは思いがけない季節の移ろいを肌で感じられるような」広い庭付きのアパートだった。「頻繁に起こるストや終電の心配なく、30分以内でどこへでも足を運べるのがパリの利点だけど、何よりも人工的な景観に、自然がしっくり馴染んでいるのがいい。草花の香りをかいだり触ったりする中で、いつの間にかストレスを発散し、心身の健康を取り戻しているように感じるんだ」と、屈託ない笑顔をみせるボリスさんであった。(咲)
●国立自然史博物館〈進化のギャラリー〉
「時空を超えて過去にさかのぼり、人類の歴史を目の前にする喜びがある」とボリスさんが息子連れでしばしば訪れる、植物園内にある博物館。吹き抜けの大空間には恐竜の骨がそびえ立ち、様々な動物の剥製や、海中動物の標本が並ぶ。水中に生命体が生まれてから、海から陸へと進化を遂げていった様子が、分かりやすく解説され、子供の知的教育にもぴったり。見ごたえ充分だ。
Museum national d’Histoire naturelle :
Jardin des Plantes, Grande galerie de l’Evolution
36 rue Geoffroy Hilaire 5e 10h-18h。火休。