家出した我が子の運命を心配する母親が、魔術師アルカンドルに依頼して子供の人生を見せてもらう。この子供、クランドールを劇の主役に、恋あり、冒険あり、と波乱万丈の物語が劇中劇として語られる。そして、王女と浮気をしたクランドールが嫉妬に燃えた王により刺し殺され、何だか物語が悲劇的な様相を帯びてくる…と見えるや、最後にどんでん返しが待っている。 1637年発表の『ル・シッド』が一世を風靡し、ピエール・コルネイユは劇作家としての地位を獲得する。この戯曲『舞台は夢』は、その2年前の1635年に発表されている。コルネイユ自身が「ロマネスク」と称したとおり、空想に溢れ、現実離れした状況設定の中で登場人物たちがたどる数奇な運命に、私たちもはらはらしてはほっと胸をなでおろし、いらいらしては笑いを洩らす。 原作では家出息子を探すのは父親だけれど、マリオン・ビエリーの演出では、美しく憂える母親が息子の運命を見守る。16世紀の戯曲といえば、歌舞伎のようなもの。古典フランス語で書かれた台詞と独特の言い回しに耳が慣れるまで少し時間がかかる。とはいえ、韻をふんだ台詞は音楽のようになめらかですんなりと耳に入ってくる。劇中で扱われるテーマは今も昔も変わらない。男女、父娘、師弟の関係はもちろん、恋愛に関していえば、昔も今も男と女は愛し合い、嫉妬をしたり仲直りもする。人間はいつの世も同じことに喜び、悩んできたのだ。一緒に行った友人によれば、この戯曲は演劇を学ぶ者には必須の作品だという。たしかに作品と同時に演劇への愛が深まるに間違いない。終わり間近の有名な台詞「私の息子が役者!Mon fils comedien !」で、母親は魔術師と息子が仕組んだからくりを理解する。舞台の中の舞台、演劇の醍醐味に拍手喝采。(海) |
火-土21h、土マチネ18h。10€-32€。 |
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D A N C E ●Toto Lacaille 劇場のほとんどが閉まっている夏のお楽しみフェスティバル “Paris quartier d’ete”。パリのあちこちの街角や近郊で、野外公演など、夏ならではのプログラム。8月のおすすめは『Toto Lacaille』。 フランス国立高等サーカス学校の卒業公演作品で、その技術・芸術面のレベルの高さは例年の公演で実証済み。近年、外部の振付家を総合演出に招いていたが、今年は、卒業生たち自らがディレクション、シナリオ、音楽、馬術などそれぞれのスペシャリストの協力のもと、創り上げる作品世界のテーマは”Cabalet nomade”。彼らがモンゴルで出会い、感じたものをベースに、空中ブランコや綱渡りなどのお馴染みの曲芸に加え、歌、アコーデオン、ギター、サクソフォン、トロンボーンを奏でる8人にベース、ドラムのミュージシャン2人が盛り上げる。(珠) |
2日-5日、9日-12日/20h30。 18€/14.5€。 Parc de la Villette (le chapiteaux): 01.4003.7575 www.quartierdete.com |