●Milan KUNDERA “Le Rideau”
全7章からなるクンデラのこのエッセー、深く広い考察がちりばめられている。学術用語や「おかたい」言葉、複雑で抽象的な文章を使わず、クンデラらしいきれのよい、というよりも、なめらか、穏やかな文体で小説の考察が進められる。
あまりにも叡智にみちている本書、その紹介は裏表紙の文章を訳すにとどめたいと思う。
“Un rideau magique, tissé de légendes, était suspendu devant le monde. Cervantes envoya don Quichotte en voyage et déchira le rideau. Le monde s’ouvrit devant le chevalier errant dans toute la nudité comique de sa prose
(…)
…c’est en déchirant le rideau de la pre-interpretation que Cervantes a mis en route cet art nouveau ; son geste destructeur se reflète et se prolonge dans chaque roman digne de ce nom ; c’est le signe d’identité de l’art du roman.”
「世界の前には、数々の伝説が織り込まれた魔法の幕が垂らされていた。セルバンテスはドン・キホーテを旅立たせ、その幕を破った。徘徊する騎士の前に、世界はその散文の喜劇的なる裸性を赤裸々にさせて拡がった(…)。
セルバンテスはこの新しい芸術を軌道に乗せたが、それも解釈以前の解釈であった幕を破ることによってであった ; この破壊的行為は、小説という名を持つに値するおのおのの小説に反映されており、引き継がれている;これは小説芸術が証明されるしるしだ」
小説を(また)読みたくなる、書きたくなる、好きになる。そんなエッセーだ。(樫)
Gallimard, 2005, 208p., 16,90 euros