県の職員として雇われたばかりのポンザ氏をめぐって妙な噂が流れている。氏は亡き妻の母親を町に独りで住まわせ、自分は再婚相手と一緒に郊外にアパートを借りているが、義理の母親を決して自宅へ招こうとしないし、再婚相手はアパートから一歩も外に出ず、誰もその姿を見たことがない。ポンザ氏の義母は、娘は生きていてポンザ氏が妄想にかられているのだと嘆いている。ところがポンザ氏は、娘の死を認めたくない母親の精神がとうとう錯乱したのだ、と言い張る。どちらかが嘘をついている。でもどっちが? 皆の好奇心はますます刺激され、騒ぎはいよいよ大きくなる。 この戯曲は、ルイージ・ピランデルロが自作の短編を1917年に舞台化したもの。当時、ピランデルロの実の妻も精神を病んで入院していた。変わり果てた妻の姿を見ながら、正気とは、狂気とは何かを考えたに違いない。最後のシーンで、事実の検証のためにポンザ氏の妻が皆の前に呼び出される。真実とは何? 真実を知ることは本当に重要なの? と作者も私たちに問いを投げかける。 ポンザ氏役のニルス・アレストラプ、義母役のジゼール・カサドシュ、謎解きの案内役を務めるローディジ役を演じるジェラール・デサルト、という優れたベテラン主役陣と素晴らしい脇役たちに恵まれたのが幸いしたのか、ベルナール・ミュラの演出が冴えているのか、笑いあり涙ありの心理劇が楽しめる。(海) |
*Theatre Antoine: |
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Dance | |
●Sacha WALTZ 《 NoBody 》 「誰でもないもの」になること、からだを持たない存在「無」になるとき。それはある日訪れ、人は「そこ」に立ち向かう、行く者も送る者も。「そこ」に至るまでさらされる、抵抗、表裏一体の歩み。そしていずれ、受け入れ難く深遠の「そこ」に抱擁され、やがて、ここを離れ、そして、残る者はどうやって生きられるのか。 今まで以上に削ぎ落とした表現でテーマはより一層きわだつ。静と動のコントラスト、とぎ澄まされていながらも激しく、逝く者留まる者の永遠の別れは抽象的に綴られる。前々作、前作で、肉体という物質とその存在の知覚、物質である肉体から発せられるエロスについて、洗練されつつ野性味あふれる舞台を創ってきたドイツの若手女性振付家の新作は、肉体という物質を完全に超えて、非物質な存在に昇華する「精神」を見せる。(珠) |
19日~22日/20h30 15€ *Theatre de la Ville : 2 place du Chatelet 4e 01.4274.2277 |
●ユニヴァーサルバレエ団フランス公演 韓国で1984年に創立、90年には芸術監督にロシアのキーロフバレエ団元監督Oleg Vinogradov氏を迎える。仏公演後に日本各地を巡回公演(5/24~6/13)。 韓国古典創作バレエ『SHIM CHUNG』 |
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