『夢判断』に感動したサルヴァドール・ダリは、1938年、死を迎える直前のフロイトを訪ねている。この事実をヒントに、イギリスの現代劇作家テリー・ジョンソンは舞台劇『Hysteria』を書いた。 ウィーンを脱出してようやくロンドンに腰を落ち着けた老フロイトは、癌に苦しみながらも静かな晩年を送っている。その平穏な生活が、フロイトに精神分析を懇願するジェシカという若い女性とエキセントリックなダリの訪問によって瞬く間に崩れる。患者を装うジェシカは、実はフロイトの元患者の娘で、母親の死の責任はフロイトにある、と信じている。フロイトから「シュルレアリストたちは狂人の集団だ!」と言われてもめげないダリは、プレゼントと称して自分の作品をフロイトに押しつけ満悦を隠さない。かくしてジェシカのヒステリーがダリにも移り、終いにはフロイトにまで影響を及ぼし始める。 アメリカ人俳優ジョン・マルコヴィッチのフランスでの初の演出は、おとなし過ぎて、ヒステリーや狂気の分量が足りない気がする。それでもダリ役(似てる!)のヴァンソン・エルバズが飛びぬけて可笑しいし、生意気な娘ジェシカを演じるマリー・ジランもなかなか好演。ところでフロイトは? 若く元気すぎる感があるし、私のイメージとは少しずれているけれど、そこはベテランのピエール・ヴァネック、手堅い演技を見せる。 * Theatre Marigny : 01.5396.7000. |
Hysteria稽古風景 / Photo: C.Cabrol |
● Le desarroi de M.Peters 財産も社会的地位も築き上げ、何一つ不自由ないように見えるピータース氏は、その実、とても悩んでいる。おまけに一番悩ましいのは、その原因がわからないことだ。売りに出ているジャズクラブを見学するピータース氏は、家族や親しかった友人たちに出くわす。彼らとの出会いによってピータース氏は再び苦悩し始める。もしかすると、暗色に塗られたジャズクラブはピータース氏の心の内面で、家族や知人たちは実存しないのでは? アーサー・ミラーの戯作を、ジョルジュ・ラヴェリの演出でミシェル・オーモンが主演する。元ジャズクラブ、という舞台設定だけあって楽器と音楽の使い方が洒落ている。ミラーの登場人物らしくピータース氏もごくありきたりの人物。オーモンという非凡な役者だからこそ、ピータース氏の平凡さを見事に表現できたのだろう、と思うが、オーモン以外は正直いってとりたてて言及するべきものが見つからないことが、観劇後の私を大いに悩ませた。 (海) *Theare de l’Atelier : 01.4606.4924. |
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Dance | |
●Robin ORLIN / Ski-Fi-Jenni…and the frock of the new 〈常に変わりつつも脅かされ続けるこの世界に共存するための、アーティストとしての視点〉、〈悲劇〉をテーマに、ギリシャ古典、ドイツロマン思想までもベースになっているこの作品、現実のこの世の中での出来事とも見えるのは偶然? 1955年生まれ、南アの白人としての彼女自身の、アパルトヘイトやエイズによる危機への社会的メッセージを、過去の3作では、時に直接的かつユーモアを交えて、身体表現のみならず造形的にも意欲的に見せてくれた。「ポリティカルなメッセージになりうるからこそ、私はダンスに興味がある。芸術には何のきまりもない、だから型をもちたくない」(珠) 19日~23日/20h30 15€/22€ *Theatre de la Ville : 2 place du Chatelet 4e 01.4274.2277 |
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