ジャクリーヌ・ソヴァージュさん(68)は、2012年、猟銃で夫の背中に3発弾を撃ちこんで殺害した。翌年、10年の禁固刑が宣告され、昨年12月にも 控訴院は同じ判決を下した。15歳のときに出会った男性と結婚し、3人の娘、息子1人に恵まれたが、夫は暴力的で、ふたりの娘を強姦。ジャクリーヌさんも負傷して4回入院したことがある。47年間耐え続けた末、テラスに座る夫の背中に猟銃を向けた。
「正当防衛」は認められなかった。正当防衛は「急迫した」不正の攻撃に対する反撃で、かつ両行為が「同時」でなければならない。殺害時、テラスの夫はジャクリーヌさんに背中を向けて座っていて無防備だったから「急迫性」も「侵害と反撃の同時性」も無いとみなされたのだ。
昨年12月、無情の判決に、法廷で涙を流す母娘の映像が流れた。ジャクリーヌさんの3人の娘は年末、「大統領閣下、私たちの母は、暴力的で横暴で、倒 錯的かつ近親相姦者である夫との夫婦生活にずっと苦しんできました」とオランド大統領に対して母親の恩赦を陳情。支援者43万人の署名が集まった。1月末、 バスチーユのオペラ座前にも約200人が集まり「確かに彼女は殺人を犯した。無罪放免は求めないが、彼女の苦しみを情状酌量するべき。10年の禁固刑は不当」と訴えた。ジャクリーヌさんの減刑を求める市民運動は、法律上の「正当防衛」の定義書き換えへと発展。家庭内暴力の被害者が「常に死の危険にあるため、 侵害行為の後から反撃することもあり得る」と書き加えることだ。左右両派の多くの政治家も支援の声をあげ、舞台は政治へと移った。
オランド大統領は、1月29日、ジャクリーヌさんの娘3人を大統領府に招き会談し、31日、任期中2回目の「恩赦」を発表した。刑期を短くし「条件付きの釈放」を即座に請求することができるというものだ。殺人犯として精神科医や刑務所関係者らによる釈放後の「危険性」の審査などを経て後に家族のもとに帰ることができるという。(集)