オリーブの一大産地、プロヴァンス地方。その真ん中にある、サンテティエンヌ・デュ・グレ村の人々は11月の14、15日を心待ちにしている。この日は、近隣の人たちが持ち込んだオリーブを圧搾する日で、ちょっとしたイベントなのだ。この村の石臼は、人と馬の力で回す“Moulin à sang血のひき臼”とよばれる大きなもの。1850年に建てられた500m2の石造りの搾油所のなかにある。搾油所は、1936年から放置されていたが、地元の人たちが修理し、伝統的なオイル作りのプロを招くなどして、昨年、80年ぶりに動かすことができた。馬を飼う人は馬と臼をまわし、オリーブを持ち込める人は持ち込む。圧搾機は大人が5〜7人でひとつのアームを回すというものだ。クラウドファンディングで3500ユーロが集められ、機器や道具なども揃えた。
今年は10月22日から、オリーブが持ち込まれ始め、今、約500キロが集まっている。昨年、石臼でゆっくり搾られたオイルを味見した地元の人々は「50年前のオイルの味」「石の味がする」と喜んだ。昔の製法でゆっくり作るオリーブオイルは、近代的な設備でつくるより酸化しやすいこともあり、アーティチョークっぽい味が強く感じられる。
大仕事の末に得られるオイルの味は格別だが、大勢の人々が石臼のまわりで作業に参加し、喜びを共有したことが何よりの収穫だったようだ。 (美)