今年の4月、サンテティエンヌ近郊の街(St-Chamond )で、15歳の少女が家族に殴る蹴るの暴行を受けていたことが発覚した、とリヨンの地方紙LE PROGRESが報じている。家族の祖国トルコで少女を強制結婚させるにあたって、祖母が処女性を調べる検査を受けさせようとしたところ、少女が拒否。頭にきた祖母が少女に噛み付き、続いて父親と叔父が少女を滅多打ちにしたという。耳を疑う話だが、この手の暴力はイスラム諸国の伝統を重んじる地域では珍しいことではない。今年の6月にフランスで公開されたトルコ映画「MUSTANG」(Deniz Gamze Ergüven監督)は、まさにその実態を緻密に描いた作品だった。
トルコでは、都会から遠く離れた田舎ほど敬虔なイスラム教徒が多く、少女たちの多くが10代のうちに強制結婚させられる(見掛けは「お見合い」だが、少女たちが断る権利はないに等しい)。それに従わなければ今回の事件のように悲惨な目にあうし、婚前に体の関係を持ったことがバレれば殺されることだってある。昨年のアングレーム国際漫画祭で金賞を受賞した大ヒット作「L ’ Arabe du futur」(Riad Sattouf作)の第2巻でも、シリアで婚外子を授かった女性が父と兄に殺される場面が出てくる。フランス滞在経験のあるシリア人の登場人物は「結婚せずに妊娠することは、ここでは最大の罪なのだから仕方がない」と繰り返す。それが彼らのスタンダードなのだ。殺人よりも婚外子を妊娠するほうが罪だなんてどうかしている、と嘆いたところで私が少女たちを救う術はない。
しかし、今回の事件はフランスで起きた。フランスの法律は、女性が婚前の身体検査や結婚を拒否する権利を保障している。9月22日には「(少女が)自分で自分を殴った」と弁解する身内3人に審判が下される。フランスの法の上では何の罪もないこの少女にとって、公正な判決が出ることを願うばかりだ。(り)