クリスティアン・ベズイデンホウトがフォルテピアノで弾くモーツァルト作品集は、どのアルバムをとっても、ソナタ2曲にロンドや変奏曲が組み合わされている。この7枚目には有名な第8番のイ短調ソナタが入っていて、これからベズイデンホウトを聴きたいという人にもおすすめ。第1楽章の冒頭から、切羽詰まったような感情が、彩り豊かな音でほとばしり出る。フォルテピアノだから、線が細い演奏かな、などと油断していた人は腰を抜かすだろう。現代ピアノと違ってペダルがなくレガートが出せない分、音の一つ一つが際立ってこの悲壮感にひと役買っている。そしてアンダンテ・カンタービレの微妙な間のとり方や細やかなタッチの使い分けから生まれる優雅さは、ベズイデンホウトならではのもので、よく歌っている。中間部の高揚はシューベルトに近づく。フォルテピアノの低、中、高音部の音の多様さを味わいたいと思ったら、ボリュームを絞って聴きましょう。息をひそめて耳を凝らすコンサートの雰囲気が再現される。(真)
Harmonia Mundi 22euros。