Dernier coup de ciseaux
セバスチャン・アゾパルディの戯曲は、彼が若い作家・演出家としてデビューした2000年代初頭から注目してきた。元気で瞬発力のあるユーモアからは彼の快活さ、頭の回転の速さが伺えるけれど、決してその才能をひけらかさず、舞台の楽しさ、喜びを万人と分かち合いたい、という姿勢を常に感じてきた。
フランスの優秀な戯曲へ贈られるモリエール賞の喜劇部門で今年この作品が受賞した、と知れば私の期待もさらに膨らむ。夏休み中のある土曜日、マチネいうのに会場は満席に近い。私たち観客は街角の美容院で起こる、エキセントリックな店長と、出入りする客たちのテンポの速いやりとりに笑い、時には腹を抱えるほど爆笑する。そこで突然美容院の上階で殺人事件が起こった!という報せ、同時に出入りしていた客のうち2名が刑事だったことがわかる。
ここからが私たち観客の出番。アゾパルディ扮する刑事は事件発生までの登場人物たちの一挙一動の検証を観客と一緒に行っていく。ただ笑うことに夢中だった観客(特に私のように単純な人間)はディテールを思い出すことができない。さらに一部終了後の休憩時間にも、刑事アゾパルディは観客を劇場の外へと誘い、事件についての議論を続ける。そして休憩後の2部では登場人物への尋問後、観客に犯人は誰かを投票させる… 。これこそ舞台は生き物だ、と言われる由縁だと感ずる。出演者たちの演技やアドリブ、そして観客の反応によっては誰が犯人となってもよいようにあらかじめ幾通りかの脚本が用意されているとはいえ、こうした臨場感、何が飛び出すのかわからないものへの期待感が舞台の醍醐味なのだとあらためて思うひととき。(海)
火-土21h、土マチネ16h。 19€-35€
Théâtre des Mathurins :
36 rue des Mathurins 8e 01.4265.9000
www.theatredesmathurins.com/