サルコジ前大統領をめぐる7件余の疑惑は、今明るみに出たわけではなく内相・大統領時代から捜査官とメディアが追っていたが大統領の免責特権により司法官は手の出しようもなかった。1995年バラデュール政権時代のカラチ疑惑。2007年リビアのカダフィ大佐からの選挙資金収賄疑惑。ベルナール・タピとクレディ・リヨネ銀行の係争疑惑(タピに損害賠償金4億€)。ベタンクール夫人からの献金疑惑。ビグマリオン社の2012年サルコジ選挙運動費の偽請求疑惑では、前大統領もコペ民衆運動連合UMP前総裁も「知らなかった」と白を切る。
7月1日、女性予審判事パトリシア・シモン氏とクレール・テポー氏が、前大統領を14時間にわたり事情聴取、翌日「積極的背信罪」「守秘義務違反」「積極的汚職」の容疑者に。30年来の友人弁護士エルゾーグ氏と、前大統領の背信容疑に関与するアジベール破棄院検事も取り調べ。「深いショックを受けた」と怒る前大統領は翌日ラジオで「二人の女性は私を辱めるため中傷、全くの政治工作 ! 一人(テポー判事)は司法官組合員で私をつぶすため」と反撃。サルコジ支持者は口をそろえて「サルコジ痛めの執念!」と怒る。ドゥブレ憲法評議会会長は「政治責任者が判事を批判するのは共和制の根本を侵害」と前大統領を侮蔑する。ボルドーのジュペUMP市長もサルコジの本末転倒の言動に批判的。
捜査官は昨年9月から今年4 月まで前大統領とエルゾーグ弁護士の私・公用携帯の通話を盗聴。2月以後の通話で、主にエルゾーグ氏が友人アジベール破棄院検事にベタンクール献金疑惑の調査状況と交換に、同検事がモナコの上級司法官のポストに就けるように前大統領に働きかけた。前大統領はモナコ訪問時に現地の大臣に頼むはずだったがバツが悪くなり約束を果たさなかった、という盗聴会話をルモンド紙が掲載(7/12)。サルコジ氏はこの件についてモナコ政府の誰にも話さず実現しなかったので背信容疑は成立しないと主張し、彼と弁護士の通話の盗聴を違法とし全通話を無効にする要求を出す構えだ。だが背信罪が成立すれば懲役5年と罰金50 万ユーロ、汚職罪には 懲役10年と罰金15万ユーロが科せられる。長期にわたる裁判中も被選挙権剥奪となり、2017年大統領選候補にはなれそうもない。
サルコジは猪突猛進し大統領にまでなったが今は一市民。数件の疑惑が明るみに出るたびに予審判事の事情聴取となり、政治家としてこれ以上の屈辱はないだろう。内相時代に彼が嫌う予審判事のポストを廃止しようとした魂胆がよく分る。リベラシオン紙などはサルコジを、次から次へと宿敵を切っていく「キル・ビル」にたとえている。
ビグマリオン偽請求書疑惑でコペUMP総裁の辞任、司法の網にかかったサルコジ前大統領とUMPは沈没寸前。同党の救命者としてジュペ市長とフィヨン元首相、ラファラン元首相の3人が総裁代理となり、嵐の中のUMPの進路を模索中。11月末に次期UMP総裁選挙が行われるが、サルコジ氏はどうするか8月中に決めるそう。疑惑の捜査が進めば進むほど、逆に彼の支持者はますます結束すると見られている。(君)