加盟28カ国選出の計751人*の欧州議会議員選挙 (1979年以来5年毎)がフランスは5月25日に行われた。今回注目されていたのは、ブリュッセルEU委員会委員長(現在ポルトガル元首相バローゾ委員長)は、加盟国首脳からなる欧州理事会が任命してきたが、今後主要グループ代表から選ばれるとあって、ドイツのマルティン・シュルツ現議長(S&D社民)や、ルクセンブルクのユンケル元首相(保守系人民党グループEPP)、中道、エコロジー、左派代表の5人が立候補。
一般市民にとって欧州議会は、国内選挙で落選した政治家や元大臣の行き場と見られ、特に欧州委員会は失業や移民問題に何ら解決をもたらさず、内政無視の傲慢なテクノクラート集団というイメージが強い。EUと欧州中央銀行、国際通貨基金IMFのトロイカ体制による緊縮策を強いられたギリシャ、イタリア人の恨みは深く、スペイン人の65%はEU に反感を抱いているという。
さらにEUへの懐疑心・反発を強めているのは、EU諸国を文化・社会的に浸食しつつあるムスリム・イスラム系移民増加に対する危機感だろう。イスラム排斥感情を煽って、EU 数カ国で伸びているのがポピュリスト系政党だ。フィンランドの〈真のフィンランド〉、ハンガリーの極右Jobbik〈さらに良いハンガリー〉、スウェーデンの元ネオナチス系〈治安と伝統〉、オランダの〈自由の党〉、ギリシャの〈黄金の夜明け〉など、ほとんどがイスラム移民排斥と反EU主義を貫く。
フランスのポピュリスト系極右国民戦線FNのマリーヌ・ルペン党首は、庶民の貧困化やオランド政権への反発、移民問題などすべてを引き受け、「Mon peuple我が民」「フランス人のためのフランス」を掲げる。4月の市町村区議選挙で燃え上がらせた炎をさらにあおり、「ブリュッセルにノン、フランスにウイ」と叫ぶ。まず国境を閉鎖し保護貿易を推進し、ユーロから独自の通貨に戻す。イスラム系移民を拒絶。「民衆運動連合UMPも社会党PSも同じ穴のムジナUMPS」、ジャンヌ・ダルク生誕602年、「モン・プープル」をエリート社会から守る使命感をますます強める。彼女はEU諸国の極右ポピュリスト系政党と関係を深めつつ、EU議会で極右系グループの形成を目指す。選挙前のFN議員は3人(ルペン父娘とゴルニッシュ氏)。しかしマリーヌの姿はめったに議会には見られず「幽霊議員」の異名をもつ。この点を突かれると「やることが多いので…」と濁す。
FNは市町村選挙の勢いにのって予想投票率(5/15-18 : Ipsos/Steria調査)FN24%、UMP22%、PS17.5%と2大政党を抜き、FN当選者25〜30人と予想された。しかし、先の市町村区選挙でのFN投票者の大半は労働者や失業・貧困・底辺年金生活者層など非エリート層。ルペン党首がどんなに脱EUを説いても彼らにはEUはあまりにも縁遠く、彼らの高い棄権率を案じたルペン党首は「棄権は一番の敵!」と叫んだわけだ。オランド大統領はEU批判の高まる中、「脱欧州連合は脱歴史と同じ」と警告する。(君)
*国別議席数:独96/仏74/英・伊73/スペイン54/
ポーランド51/ルーマニア32/オランダ26/ギリシア・
ベルギー・ポルトガル・チェコ・ハンガリー各21/スウェーデン20……キプロス・ルクセンブルク・マルタ各6。