Quartier Latin界隈(5区)
アジア文化の専門家として、大学講師、作家、映画祭キュレーターなど、多様な肩書きで活躍を続けるレイモン・ドランブルさん。生まれも育ちもマレ地区だが、左岸から吹く文化の風に誘われ、数年前にカルティエ・ラタンに居を定めた。この界隈は、文化施設や大学、レストランやショップ、マルシェ、庭園など、生活の基盤となるものが心地よく凝縮されている。同じく大都市である東京やニューヨークと違って村的な雰囲気がよく残り、そこかしこに「カワイイ」小道が伸びているのが心地よいのだとか。
例えばモーベール・ミュチュアリテ駅近くのビエーヴル通りもそんな小道のひとつで、レイモンさんが数十年来通う中華レストラン〈Au pays du sourire〉もある。ここで、彼が得意の中国語で店主と世間話をし、正統派の北京料理に舌鼓を打つのが楽しみだそう。同じ通りの22番地には、かつてミッテラン元大統領も住んでいた。「だから80年代は通りが封鎖され、〈Au pays du sourire〉にたどり着くために身分証明書の提示が要求されました。物々しい警備で、客足に影響が出て大変そうでした」
このビエーヴル通りをまっすぐ進めばセーヌ川へ抜ける。トゥールネル橋では、パリの守護聖女サント・ジュヌヴィエーヴ像が散歩者を見下ろす。サン・ベルナール河岸には、有名彫刻家の現代作品が並んでいるのも、文化都市パリらしい。さらに歩を進めれば、レイモンさんの幼少時代からの思い出が詰まった植物園が広がる。サクラ、スイレン、ボタンでも名高く、彼が愛してやまないアジアを感じられる場所でもある。「カルティエ・ラタンは本質を失わず時を重ねてきた。植物園を囲む古い壁ひとつにも、その崩れ方に味わいが感じられます」
ただしこの界隈にも、レイモンさんが耐えられない建築物がただひとつ、「ジュシュー」ことパリ第7大学の校舎だ。「とにかく醜い! アスベスト問題もあるから移転すべきなのに、一部の職員のエゴのためにそのままなんですよ」(瑞)
●Au pays du sourire
ミッテラン元大統領もお忍びで食べにきていた正統派・北京料理レストラン。餃子が木曜と日曜に食べられるのは、かつて小学生の休日に合わせていた名残り。湯のみに揺れる花びらが美しい、菊のお茶も美味しい。
火~日12h-14h30/19h-22h30。月休。
32 rue de Bièvre 5e 01.4326.1569
●Musée de la sculpture en plein air
シュリー橋とオーステルリッツ橋の間のサン・ベルナール河岸沿いには、個性豊かな彫刻アートが点在。青空のもと、セザール、ブランクーシ、ニコラ・シェフェールの作品群を、セーヌを背景に堪能してみよう。
Quai Saint Bernard – Square Tino Rossi
●Le Jardin des plantes
起源をルイ13世時代の17世紀までさかのぼれる植物園。もともとは王立の薬草園だった。博物館、動物園、温室、バラ園、アルプス園、植物学学校なども併設。四季折々のよさがある、彩り豊かな市民の憩いの場。
夏期:7h30-20h、冬期:8h-17h30。無料。
57 rue Cuvier/2 rue Buffon/
36 rue Geoffroy-Saint-Hilaire 5e
Au pays du sourire
ミス中国から、映画の賞を もらったこともある。
サント・ジュヌ ヴィエーヴの像はポール・ランドフスキー作。
セーヌ河岸に並ぶ彫刻作品。
セーヌ河岸に並ぶ彫刻作品。
味わいのある植物園を囲む壁。