階段を上がる。人ひとりが入れる暗黒スペースに展示された半球型クリスタル。神秘的な雰囲気に導かれ、出会ったのは「時の音」。クリスタルの球形の中で真鍮(しんちゅう)の針がクリスタルの表面をなぞりながら回転する。60秒を刻む摩擦音が静寂に響く。まるで、日常の中の独立した「時」に向かうように。「時」を聞き入るように。「時」に瞑想するように。伝統の技術を継承し、独自のクリエイティビティで絶えず革新を続ける「エルメス社」の自社アルティザンと若いアーティストとのコーポレーション活動に選ばれた小平篤乃生(こひら あつのぶ)の作品だ。
モーゼル県にあるサンルイ・クリスタルガラス製造所で作品を完成させた小平篤乃生は語る。「エルメスの技術と素材を用いたレジデンスプログラムでの制作で、容易には扱えない素材や技術への理解を深めるだけでなく、工房の持つ歴史や地域の歴史的背景も学ぶことができた。制作の表現は自由で、ブランドの商品をプロモートしなければならない条件はなく、国家最優秀職人の力を借り、自分の制作姿勢を歪めることなくのびのびと制作できた」
2010年からのレジデンスプログラムに選ばれた15人のアーティスト作品も見逃せない。(苗)
«CONDENSATION» 9月9日迄。
Palais de Tokyo:13 av. du Président
Wilson 16e M° Iéna