マルク・シャガール(1887-1985)のようなポピュラーな画家は、作風があまりに知れ渡っているだけに、普通の展覧会では記事にする意味がないが、この展覧会は着眼点が良い。戦争という重いテーマを前面に出し、シャガールがそれをどのように感じ、表現してきたかを伝えている。
ロシアのユダヤ人家庭に生まれ、1911年に奨学金を手にしてパリに出た。ベルリンで初の個展を開いた直後、第一次世界大戦、引き続きロシア革命が起きた。
兵士や逃げていく人々を描いた1914年頃の作品は、一見素朴だが、モダンな作風に、人々の悲しみがしずくのように込められている。
圧巻は『抵抗、復活、解放Résistance, Résurrection, Libération』3部作だ。高さ168cmの大きな3枚の油彩である。
『抵抗』は赤い色調で、抵抗する人たちとそれを破ろうとする人たちの緊張がキリストを中心に描かれ、パレットを手にした画家(おそらくシャガール自身)が画面の真ん中に横たわっている。『復活』では赤よりも青が強くなり、キリスト像がさらに大きく画面の中心を占めている。青い画家はキリストの隣に逆さまに描かれ、その手はキリストの脚に触れている。キリストに助けられ、これから復活していく画家は、起き上がったが、まだまっすぐに立ってはいない。
『解放』で、キリストは消えている。中心は、金色の光を放つ太陽だ。その上に立ってバイオリンを弾く男や背後で音楽を奏でる人たちが描かれ、画家はこれまでより大きく、画架を前にして、まっすぐに立っている。
3点とも、メッセージは強く出ているが悲惨さはなく、夢の中の出来事のように描かれている。
旧約聖書の挿絵本も良い。息子をいけにえにしようとするアブラハムを止めに入る天使は、羽と身体が鳩のように極度に単純化され、顔だけが人で、その表情が物語のすべてを語っている。
『夢 Le Rêve』は、シャガールの詩的な空想力が発揮された繊細な作品。ウサギとロバを合わせたような動物が仰向けに寝ている人を背に乗せて、湖の中に入っていく。水の中には人影があり、月が映っている。人は夢の中にいて、どこへ連れていかれるのか知らない。青の濃淡が美しい。(羽)
Musée du Luxembourg : 19 rue de Vaugirard 6e
7月21日迄。無休。
画像:Marc CHAGALL Le Rêve 1927
huile sur toile, 81x100cm
Paris, Musée d’Art moderne de la ville de Paris
Ⓒ ADAGP, Paris 2013/CHAGALLⓇ
Ⓒ Musée d’Art Moderne/Roger-Viollet