Belleville界隈(20区)
「オヴニー(未確認飛行物体)のような作品」と、自作を紹介するのは、映画監督のエリック・ピタールさん。現在パリで公開中の新作『De l’usage du sextoy en temps de crise』は、映画のカテゴリー分けを無効にしてしまう、どこまでも自由な一人称のドキュ・フィクション。白血病を患った実体験をベースに、自らの生と性にとことん向き合っている。
ドキュメンタリー作家として長年活躍してきたエリックさんは、パリ郊外のサンドニ市出身。若い頃は発音も文化も、匂いまでも違うパリに住むことに抵抗があった。だが意を決し、80年代に家族でベルヴィル界隈に移り住む。外から見れば中華街のイメージが強いが、住んでみれば想像以上にコスモポリットな町と気づいた。丘の上の貧しい労働者の村だったベルヴィルには、19世紀末から移民が移り住む。第2次大戦前からギリシャ人、アルメニア人、ポーランド系のユダヤ人、戦後は北アフリカやアジアからの移民が増えた。「だからベルヴィルの朝市には20カ国以上の言語が飛び交っている」。異文化を排除せず、全てをのみ込む懐の広さにも心引かれた。「ユダヤ人が経営するクスクス屋の向かいに、アラブ人が店を開ける。でもここに戦争はないんだ」
エリックさんお気に入りの場所は〈Maison des métallos〉。かつては金管楽器の工場や金属工業者組合の建物だったが、今は多目的文化センターに変貌した。金属工業労働者の組合員だったジャン=ピエール・タン
ボーの名を冠した通りにある。彼はギ・モケらとともにナチに銃殺された人物だ。
「16区あたりには〈(有名人の)○○が住んでいた〉という記念プレートが多いけど、このあたりは〈○○がナチに連行された〉なんてのが多い」とエリックさんは苦笑する。ドキュメンタリー作家らしく、小さな歴史まで映し出す、その眼差しは繊細だ。「ルーヴルやエッフェル塔だけが歴史じゃない。壁、石畳、食事にだってパリの歴史がしっかり刻まれているよ」(瑞)
●Valentin
「もとはアルゼンチン料理専門だったけど、オーヴェルニュ地方のパトロンとタイ人のスタッフが加わり、結果、みごとなベルヴィル風多国籍レストランになった」とエリックさん。おすすめはトリップ料理。味と値段のバランスもお墨付き。
12h-14h30/19h30-23h。土昼・日休。
64 rue Rébeval 19e 01.4208.1234
●Marché Belleville
パリには82の市場が存在するというが、中国語、アラブ語、フランス語と、さまざまな言語が飛び交う。最も国際色豊かな朝市がここ。ベルヴィルとメニルモンタン駅をつなぐ大通り沿いに伸びている庶民的なマルシェで、安さも人気の秘密だ。火と金7h-14h30。
Terre-plein du boulevard de Belleville
●Maison des métallos
パリ市が運営している多目的文化センター。歴史的建造物を、2007年11月にパリ市が文化センターによみがえらせた。3000㎡の敷地内で、演劇、ダンス、展覧会、映画上映、コンサート、討論会。
月~金9h-19h 、土14h-19h 。
94 rue Jean-Pierre Timbaud 11e
01.4805.8827
ピタールさんの新作の一シーン。
ベルヴィル公園は起伏が楽しめる。
「言葉にご用心」。アーティスト、ベンからのメッセージだ。