マグレブ人経営の肉屋ではハラールhalal認証の肉、ユダヤ人経営の肉屋ではカシェールcacher認証の肉のみが売られている。それぞれ、イスラーム、ユダヤ教の規律に従って、気絶させることなく、のどを鋭利なナイフで切ってと殺して処理された肉だ。最近、マグレブ移民の多い地域ではハラールのファーストフード店などもオープンして話題になったりしている。
2月中旬、パリで農業見本市が開催されている最中に、反イスラーム、反ユダヤの旗頭、マリーヌ・ルペン国民戦線党大統領候補は「イル・ド・フランスに出回っている肉は、消費者は知らないが、ハラール認証のもの」と精肉業者協会に抗議状を送った。2月21日、ランジス中央市場を訪れたサルコジ大統領は「イル・ド・フランスでは、毎年20万トンの肉が消費されているが、ハラールおよびカシェールの肉はそのうちの2.5%でしかない。論争外だ」と語った。ところが大統領選で苦戦を続ける同氏、極右票を見込んでか、3月5日、「フランス国民が一番関心を持っている問題はハラールの肉である」とひょう変の発言。ゲアン内相は、外国人に地方選挙権を与えることに反対の理由として、「外国人の市会議員が学校給食にハラールの肉を出すことを義務づけたりするようになることは拒否したい」。フィヨン首相も追い討ちをかけるようにユダヤ教徒とイスラーム教徒に「古来の伝統である儀式的なと殺は、現在ではもう意味がない」
これに対してユダヤ教の代表者は「(フィヨン首相の発言は)国家と宗教の分離をうたう国なのに信じがたい」と怒りをあからさまにする。こうした右傾化に与党の民衆運動連合UMP内でも反対の声が上がる。ジュペ外相は「ハラール肉の問題は、問題ですらない。ほかに討論すべきもっと大切な問題がある」と語り、サリマ・サーUMP議員は、「600万人のフランス人がイスラーム教徒であることを忘れてはいけない。彼らに関する否定的な判断が広がっていくことに直ちに終止符を打つべきだ」とコミュニケを発表する。メランション左翼戦線大統領候補は、ハラールの肉論争は「グロテスクな話だ。マリーヌ・ルペン氏はハラールの肉を食べるとイスラームに感染するとでも私たちに思わせたいのか。(ハラールにのっとったと殺が動物に苦痛を与えるというが)、彼女は死刑復活に賛成している。死刑台に送られる人たちのことはどう思うのか」と痛烈な抗議。
この成り行きにあわてたフィヨン首相、3月7日と8日、イスラームとユダヤ教の代表者を首相官邸に招いて、ハラールおよびカシェール認証の肉への規制はしないことを確約したらしい。(真)
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「右派、大殺りく」(boucherieには「肉屋」と「殺りく」の意味がある)という見出しの3月7日付リベラシオン紙。