酒場らしき場所で女がテーブルいっぱいに広げた紙を見つめているところへ、ヴァイオリンを抱えた男が寒そうに駆け込んでくる。女の姿を認めるとうれしそうに微笑む男、二人はどうやら知り合いらしい。女は顔を上げ「リハーサルはどうでした?」と尋ね、男は「いやぁ、ドイツ人の指揮者がなかなか厳しくてね」と答える。北アイルランドの劇作家ブライアン・フリールが、チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』と『三人姉妹』の登場人物二人の出会いを描いたのがこの戯曲『その後の二人〜ソーニャとアンドレイ』だ。
チェーホフが描いた話からおそらく20年は時が経ち、二人とも今は中年の男女。前夜同じ酒場で出会っただけで、もちろん二人とも別の土地からモスクワへ来ていて、前からの知り合いではない。『三人姉妹』の兄アンドレイは、オペラのオーケストラのバイオリン奏者で、子供たちは立派に成人し、別の土地で堅実な生活を営んでいると語るのだが、話が進むうちにその話の真実とうその境目が怪しくなってくる。『ワーニャ伯父さん」のめい、ソーニャは伯父から譲り受けた領地の素晴らしさを語るが、実は孤独と経営難で苦しんでいる、ということがわかってくる。
人生をやり直せるのか? という疑問は、チェーホフが戯曲を通してたびたび発してきた。未来への夢と希望を抱きながらも、現実を受け入れ、今の場所にとどまる人物たち。フリールが描くソーニャとアンドレイはどうだろう。「また会えますか?」、「手紙を書いてもいいですか?」と住所を教え合う二人に、再会の時が訪れるのか? そうだったらいいなぁ…と、一縷(いちる)の希望を残しながら幕が下りる。演出はブノワ・ラヴィーニュ。12/31迄。(海)
火-日19h。 32€。
Une autre vie Théâtre La Bruyère
Adresse : 5 rue La Bruyère, 75009 parisTEL : 01.4874.7699
URL : http://www.theatrelabruyere.com