政治家ドミニク・ストロス=カーン(DSK)国際通貨基金前専務理事のNY のホテルでの性犯罪疑惑はフランス社会にかつてない衝撃を与えている。フランスでは私生活は法律で保障されているからメディアは寝室前でシャットアウト、愛人関係などを暴露しようものならプライバシー侵害で訴えられるのでほとんどは知人同士のうわさで終る。
ピューリタンの国、米国でのDSK告訴によって、男性に寛大すぎるとみられているフランス女性に代わってフェミニスト団体「ヒゲ La Barbe」や「勇気を出せフェミニストOsez le féminisme」活動家たちが5月25日以来、抗議デモをくり広げている。
DSK裁判が起爆剤となり、政財界でセクハラや性暴力を受けた女性たちが次々に屈辱的な体験を明るみに出し告訴している。その一つがトロン・ドラヴェイユ市長兼公務員担当相による女性職員2人(2人ともうつ状態になり辞職に追い込まれた)へのセクハラ疑惑。フィヨン首相は、セクハラ疑惑による次期大統領選挙への影響を恐れ5月29日、同市長を閣僚職から辞任させた。6 月20 日、同市長とセクハラ共犯容疑の助役が検挙された。
フランスはロマンスの国。「le Vert galant 色男」として知られたアンリ4世(愛人54 人)、性欲が人一倍強かったルイ14世…大統領ではポンピドゥもその方面ではかなり派手だったし、ジスカール・デスタンは著書『la Princesse et le Président』でもダイアナ妃との空想的(?)関係をほのめかし、ミッテランはオルセー美術館元幹部パンジョ夫人との公然の隠し子マザリーヌをもつ二重生活者、シラクはベルナデット夫人もこぼしたように「尻を追いかけた」ほう。サルコジ大統領は経済・内相時代にシラク大統領の娘クロードさんとも付き合い、かなりの女たらしだったそう。
国民にも女性にももてる政治家とは、ドヴィルパン元首相の言う「妻は南仏の別荘に、愛人はパリに」というのが普通らしい。あちらでもケネディとモンローの怪しい関係、クリントンのモニカ・ゲート、イタリアのベルルスコーニ首相は未成年売春ガールとの関係やブンガブンガ・エロチックパーティが醜聞沙汰に。
こう見てくると、権力とセックスは相関関係にあり、心理学者たちも分析しているように、支配欲は同時に男性ホルモン、テストロステロンやリビドーを活発にし、政敵にも女性にも攻撃的となるよう。男らしさとは「突っ込み」にあり、女性は「突っ込まれる」側にあるわけだ。
DSK告訴以来、強姦(ごうかん)・性暴力被害者相談室にかかってくる電話が30%急増。07-08 年に18〜75 歳の36万4千人が1回は性暴力を受けているという。強姦被害者は年約15万6千人(10%弱が提訴)。警察に届け出た強姦被害者約2万3千人のうち約5400件は未成年者、4700人は成人、47%は父親・義父・祖父・叔父たちによる近親姦被害者だ。フランスは強姦罪を1980年に、夫婦間強姦罪を1992年に制定。強姦は「暴行・強制・脅迫・不意打ち」による性器挿入で重罪裁判所で裁かれるが、性暴力やセクハラなどは「性的侵害」として軽罪裁判所で扱われる。
男性は女性を、62年前ボーヴォワールが表した『第二の性』に留めておきたいのでは。(君)