名門、ニューヨーク・シティ・バレエ団のバレリーナ、ニナ(ナタリー・ポートマン)が、芸術監督
(ヴァンサン・カッセル)の英断で、とうが立って来たエトワール、ベス(ウィノナ・ライダー)に代わって『白鳥の湖』の主演に抜擢(ばってき)される。挫
折した元バレリーナの母(バーバラ・ハーシー)の過保護の下で育ったニナは人生経験不足で内気な優等生タイプ。でも胸に秘めた野心は熱い。そんな彼女を
「お前は清楚な白鳥は踊れても、セクシーな黒鳥(一人二役)もちゃんと踊れるのか?」とばかり、いたぶり挑発し傷つけ鍛え上げようとする芸術監督。そして
黒鳥にぴったりのライバル、リリー(ミラ・クニス)の存在。彼女に役を奪われてしまうのではないかという猜疑(さいぎ)心も手伝って、ニナは混乱してゆ
く…。と、古典的ともいえるテーマが詰まった『ブラック・スワン』の物語だが、これはホラー映画だ。
手持ちのカメラはニナに密着し片時も彼女か
ら離れない。しだいに彼女の被害妄想的な幻覚が膨れ上がり現実との境目を失ってゆく。ニナと一緒にこちらも恐い思いをいっぱいする。ちゃんと初演の舞台を
務められるのか?
もう他人事じゃない。似たようなテーマ、同じような物語でも、映画は切り口ひとつで様相を変え、違った楽しみ方(笑う、泣く、はらはらサスペンス、恐怖心
など)を提供してくれるのだ。監督は『レスラー』でミッキー・ロークを復活させたダーレン・アロノフスキー。先日発表されたゴールデングローブ主演女優賞
を本作で射止めたナタリー・ポートマン。13歳『レオン』で鮮烈なデビュー以来、第一線を張ってきた彼女も今年30歳。ピチピチ盛りを過ぎた肌をさらし、
女の焦りや憂いも伝わってくる。肉体を使う仕事の容赦なしの過酷さがひりひりと痛い。 (吉)