
人種差別が引き起こしたテロ事件
イヴリーヌ県で起きたテロ事件。犯人は10月23日(金)朝10時ころ、トラップ市から隣町のヴェリエール市へ15分ほど車を走らせながら、道路、医療施設、公園、交差点、ガソリンスタンドなどで停車し、車内から、または車から出て乱射を続けたのち、最後の発砲地点から2kmほどの地点で警察に逮捕された。取り調べに対しケヴィン・T容疑者は、アラブ人、黒人を狙ったと供述。トラップ市の住民で格闘技のプロをめざし道場に通うペンゴ・ボッシオ・ワンギさん(26歳)が死亡、12歳の少女が銃弾を8発受けるなど、7人が重症を負った。
その1週間後の10月30日夜、トラップ市で追悼式が行われた。壇上には、「レイシズムに反対し、共和国を選択する」のメッセージが掲げられた。〈共和国〉は単なる政治体制ではなく、自由、博愛、平等を信条とする国を意味し、あらゆる差別はその共和国の精神に反する。

テロ容疑者の自宅からは、ヒトラー著『マイン・カンプ(我が闘争)』や、「フランス、RN万歳*、フランス人である誇り」(RNは極右政党「国民連合」 Rassemblement National)と書かれたステッカーなどが発見された。アリ・ラベ=トラップ市長は壇上から「これ以上なにが(どのような証拠が)必要なのか?目を開いてください。RN党が〈人種差別〉という彼らの基本姿勢を捨て、普通の政党に変身したなどとまだ言っているのですか?RNは数十年にわたって、憎しみの継承をになってきたのです」。また、RNに投票する人々に対しては「(RNの説く)、レイシズム、反ユダヤ、反イスラムの意見に賛同していない方が多いことは知っています。今、目を開いて、共和国を選択するよう懇願します」と力強く訴えた。ラベ市長自身、市長に就任してからは特にヘイト発言の標的となり、脅迫状を受け警護を受けるなどの経験をしている。
RNジョルダン・バルデラ党首は、過去のユダヤ人差別の記述が、ネットメディア「メディアパルト」によって9月に暴露されたばかり。同党の前身であるFN(国民連合)の創設者ジャン=マリ・ルペン(故人)はナチス親衛隊だった過去をもち、FN党を立ち上げた後もユダヤ人差別、イスラム教徒の排除などを唱えてきた。創設者の娘マリーヌ・ルペンは、父親を党から除外までして党のイメージのクリーン化に図り、党名もFNからRNと変え、ロゴまで変えた。それでもあいかわらず党員のボロが隠しきれない状態が続いてはいるが、世論調査では次期大統領選挙で最多票を得て決選投票へ進むことが予想されている。
ヘイト、差別発言をたれ流すテレビ局の閉局は可能か。

フランスにおける極右RN党の台頭の理由のひとつに、メディアがヘイト・差別発言を一般化してきたことにある。特に問題視されているのが「CNews」(セニュースと読む)だ。〈24h/24hのニュース専門局〉を名乗りながら、スタジオのキャスター、コメンテーターらがヘイトを連発する。今回テロ事件があったトラップ市に関しても、以前から「ジハードの中心地」「イスラム共和国ミニチュア版」などと形容し、ネガティブなイメージを形成してきた。ヘイト・差別発言はフランスでは軽犯罪で処罰の対象となるが、処罰を受けながらも続けてきた。それまではばかられていた発言がテレビで垂れ流しにされ、あたかも堂々と言ってもいいかのような空気を作った。視聴覚デジタル通信規制局(Arcom)が、それらを監視し、処罰を与えるはずなのが、規制が十分に行われていないことも指摘されている。
テロの前、10月なかばに国民議会のサイト上に設けられた「CNews をフランス視聴覚から抹消する」署名運動は、テロの後、署名がみるみる伸び、50万筆に達しそうな勢いだ。署名運動が、30県以上から50万筆以上集まると、国民議会で議論される可能性が生じる。
CNewsは、メディア王ヴァンサン・ボロレ氏が2016年に買収したカナル・プリュスグループ傘下にある。ボロレ氏は2000年ころからテレビ・ラジオ局、新聞・雑誌、出版社などメディアを次々と買収。2010年には有料ケーブルTVカナル・プリュスも取得した。
署名運動では「CNewsはプロパガンダの機械である。2019年から今日まで視聴覚デジタル通信規制局(Arcom)から27回の戒告を受け、63万ユーロの罰金を課されている。これはフランス視聴覚分野における記録である。……CNEWSを所有するヴァンサン・ボロレ氏にとっては、罰金10万ユーロで済むなら、喜んで払い、反則をし続けるだろう」。大統領選挙まで半年。視聴覚をめぐる闘いはますます激しくなりそうだ。(六)
