
大統領府は10月10日深夜、マクロン大統領がルコルニュ氏を首相に再任したと発表した。同氏は、来年度予算の年内成立の必要性と政治危機から脱すべきという「義務感」からこれを受け入れたと述べた。
ルコルニュ氏は18人の閣僚を発表した翌日6日に「首相の役割を果たすための条件が整っていない」と辞任したが、各党と妥協案を模索するための協議を8日まで続けるよう大統領から要請され、首相への再就任はないとしつつ、それを受諾。同氏は首相再任の条件として、年金改革の見直しや税制の公正化といった、この2日間で与野党と協議したすべての課題を国会で最後まで審議すること、財政赤字の改善、多様性を重視した内閣を掲げ、組閣に関しては全権を委任されたと見られている。ただし、次期大統領選に出馬する野心を持つ人は避ける意向だ。

「究極の挑発」、「国民への侮辱」…。
ルコルニュ再任に、野党は一斉に反発した。左派からの首相任命を主張していた社会党は、再任は「究極の挑発」であり政治危機をさらに深めるものと批判。また、施政方針演説でルコルニュ首相が強硬採択しないことを約束し、国民の購買力を向上させる政策を打ち出し、2023年の年金改革のすべての措置の即時中止を明言しなければ不信任案に賛成票を投じると明言した。
エコロジスト党も不信任案に賛成するとし、共産党は政府不信任と議会解散総選挙は不可避とした。服従しないフランス党(LFI)もマクロン大統領の罷免願いと内閣の不信任案を提出する意向だ。
政権に参加していた右派の共和党は、バカにしていると憤慨する向きもあり、ルタイヨー前内相は入閣しないと宣言したものの、大多数の党員はルコルニュ首相への支持を表明した。極右の国民連合(RN)は「民主主義の恥、国民への侮辱」と不信任案と解散総選挙への意欲を見せた。
10日午後にLFI、RN以外の全政党との最後の話し合いを終えたマクロン大統領は、年金改革により62歳から64歳に段階的に引き上げられている定年年齢について、64歳に到達する時期を予定の2027年1月から、大統領選挙後の2028年1月に延期する妥協案を示したという。しかし、左派はその程度の妥協案には満足しないし、逆に共和党は年金改革の見直しそのものに反対であり、ルコルニュ首相が国会で審議を尽くせるかどうかは微妙なところだ。
2024年総選挙以降5人目(2回目)、つづく不安定。
政局混乱の元をただせば、2024年6月の欧州議会選挙で与党が大幅に後退したために、マクロン大統領が突如、国民議会解散を決め、その総選挙の結果、議会の過半数を失ったことにある。議会で第1勢力となった左派連合の足並みの乱れに乗じ、右派の共和党とのあいまいな協力関係でなんとか政権を維持していたバランスも崩れ、24年の総選挙以降は4人の首相がいずれも短命で終わり、政局の不安定さを招いた。

マクロン政権下の首相だったフィリップ氏は、新内閣が予算案を成立させた暁には大統領選を前倒して実施すべきと発言。同じく元首相のアタル氏もすべてをコントロールしようとするマクロン氏のやり方を批判したり、別の前閣僚も過去を断ち切って左派に手を差し伸べるべきだなどと、与党連合内からも不協和音が聞こえる。第2次ルコルニュ内閣が生き残るには困難が多すぎるようだ。(し)
