ライトグリーンの円頂塔が目印、高級映画館「パテ・パラス Pathé Palace」。内装は見事なアール・デコ様式。 パリ・オペラ地区の映画館ゴーモン・オペラ・カプシーヌは、2019年に一旦閉館した。しかし、大規模な工事を経て、2024年7月「パテ・パラス Pathé Palace」の名で装いも新たに蘇った。高級志向の映画館として、五つ星ホテルに負けぬサービスを提供する。現在、似たコンセプトの映画館は、アメリカや韓国、日本で存在するが、フランスでは初の試みとなった。
ゴーモン・オペラ・カプシーヌ時代は、赤字の看板や新作のポスターが目立ち、一目で映画館だとわかったもの。一方、新しいパテ・パラスは看板がさりげなく、気付かず通り過ぎる人も多そう。もともとは1869年にヴォードヴィルの劇場として誕生したオスマン様式の建物。ライトグリーンの円頂塔や壁面の彫像などは残し、本来の歴史的建造物の上品な魅力で勝負だ。ポンピドゥ・センターやパテ財団を手がけた建築家レンゾ・ピアノが改装を担当。開放感のあるホールの吹き抜け部分は陽光が差し込み、逆さピラミッドのような巨大なガラスの中に緑が植えられた。
映画料金は均一料金で大人は25€、14歳未満は9.50€。残念なことにPathé系列の映画見放題パス「CinéPass」は利用できない。ゴーモン・オペラ・カプシーヌと同じく7つの上映室を備えるが、合計座席数は2169席から854席へと大幅に減らした。部屋によっては、心地良さそうな革のリクライニングシートを設置。乗ったことはないが、まるで飛行機のファーストクラスのシートのようだ。観客数を増やすより、裕福な層を満足させるきめ細やかなサービスを提供する道を選んだのだ。
メインルームは431席のsalle1。迫力ある音と映像を楽しめるDolbyVisionとAtmosを導入した。ほぼすべての上映室にはSamsung Onyx
LEDスクリーンを設置。これは従来のスクリーンと異なり、画面そのものが発光するため、映写機が必要がないという。映写機がないのは便利かもしれないが、本来の映画文化と遠ざかるようで、寂しい気がするのは自分だけだろうか。
入口の左手にはコンシェルジュが待機。オペラ地区ゆえ、パリに不慣れな観光客も見込んでいる。客であれば、例えば道案内をしてもらったり、タクシーやレストランの予約ができる。要は一流ホテル感覚で利用すれば良い。傘、充電器、ひざ掛け、裁縫セットも完備。希望者には英語やフランス語の新聞の提供も。また、クロークも完備する。
ワインを飲みながら映画が鑑賞できるのは、国内でも大変珍しい(パリ15区のパテ・ボーグルネルでも週末夜に実施)。館内にはワインの販売ブースがあり、仏産を中心に24種を常備。値段は一杯8€から。「Le Service au Fauteuil」も見逃せない。映画上映の30分前までに、ネットで飲み物や軽食を注文すれば、座席まで運んでくれるというサービスだ。地下スペースには、カラフルで形もさまざまなソファが並び、子どもたちも喜びそう。ここでは種類も豊富なスナックやドリンクが購入できる。
2階のバーが穴場。
加えて、特にお勧めしたいのが、二階にあるカフェ・バー。イヴ・サンローランやコッポラ親子(ソフィアとフランシス・F)が指名するインテリア・デザイナー、ジャック・グランジュが内装を手がけた。この建物が最初に映画館として営業を始めた1920年代を偲ぶアール・デコ調の優美な空間が広がる。バーの看板はないが、映画の客でなくても利用ができる穴場。オペラ界隈で落ち着きたい時に、気軽に利用すると良いだろう。また、館内どこかに素晴らしいテラスもあるらしいが、今のところ一般公開されていない。観客への特典として、時々は解放してほしいものだ。(瑞)
Pathé Palace
Adresse : 2 Bd des Capucines, 75009 Paris , Franceアクセス : Opéra
URL : https://www.pathe.fr/cinemas/cinema-pathe-palace