団体には初、アジアでも初の名誉パルム。
映画祭も折り返し地点に入る頃、スタジオジブリ関連のイベントが続きました。映画界の発展に寄与した人に贈られる「名誉パルムドール」をジブリが受賞したのです。同賞は1997年にスタート。5年位前まではフランスの映画人を選ぶことが多かったのですが、ここ最近はハリウッドへの媚び売りのようにアメリカの映画人を表彰してばかり。今回、ジブリはアジア勢としても、団体としても、初の受賞という快挙となりました。
まず、5月19日夜にはカンヌ・クラシック部門で『君たちはどう生きるか』の制作の裏側を追ったドキュメンタリー『HAYAO MIYAZAKI AND THE HERON』の上映が。NHKのプロフェッショナル仕事の流儀「ジブリと宮﨑駿の2399日」特別編に当たる『宮﨑駿と青サギと…「君たちはどう生きるか」への道』のようです。
上映前には20年以上宮﨑駿監督の取材を続ける荒川格監督と、スタジオジブリ取締役の依田謙一氏が挨拶。「カメラを向けることをためらっている僕に、宮崎さんはこう言いました。『くるくるぱあになっていく俺を撮れ、それがドキュメンタリーだろ』と。ありのままの姿を撮らせてくれた宮崎さんにこの場を借りて感謝申し上げます」と荒川監督。「普段はヴェールに包まれているところに、皆さんが近寄っていける貴重な機会だと思います。裸の二人(宮崎駿&鈴木敏夫P)がそこにいると思います、楽しみにしていてください」と依田氏。
映画には冒頭から、温泉に浸かって文字通り“裸”の監督が登場。しかし、そのリラックスぶりに油断する間もなく、巨匠は色々な顔を見せていきます。苦しみもがくプロの顔、近所のちびっこと仲良しの顔などなど。監督からのスタッフへのリスペクトと、パクさん(高畑勲監督)への片思いぶりも印象的でした。
翌20日には2300席のメイン会場リュミエール劇場で名誉パルムドールの授賞式が。ジブリを代表し、宮崎駿監督の息子で監督、常務取締役の宮崎吾朗氏がレッドカーペットを歩きました。背景にはトトロの音楽も流れています。場内はスタンディングオベーションでジブリチームを大歓迎。「ありがとうございま~す!」と日本語で叫ぶ外国人ファンの声も飛びました。
「今日、本当であれば宮崎駿と鈴木敏夫がくるべきだったろうなと、僕も思います。その弁明のビデオメッセージがございますので、皆さんご覧になってください」。そんな吾朗氏の言葉の後には監督と鈴木プロデューサーのふたりのコメントを収録したビデオも流れました。(ビデオリンク https://x.com/atsukotatsuta/status/1792558319493857541 )一部抜粋しますと:
鈴木P「今回カンヌ国際映画祭で名誉パルムドールという賞を頂くことになりました」
宮崎監督「よくわかっておりませんが、有り難うございます」
鈴「代理で吾朗くんが行きます」
宮「気の毒です」
鈴「ジブリ美術館の短編4本上映します。上映するのは『めいとこねこバス』『やどさがし』『パン種とタマゴ姫』『毛虫のボロ』。前から宮さんね、外国で上映して評価を聞いてみたいって言ってたんですよ」
宮「僕、言ってないと思います」
まるで夫婦漫才のようなメッセージに、会場は拍手と笑いに包まれました。立ち位置はツッコミの鈴木P、ボケの宮崎駿。続いて、吾朗氏が壇上で名誉パルムドールの盾を受け取ります。ここで今年3月に『君たちはどう生きるか』が米アカデミー賞で受賞した際、オスカー像には箱がなく、ジブリスタッフは仕方なくホテルのタオルに包んで持って帰ってきたというエピソードを披露。「パルムドールはケースに入っていてよかったと思いました」と語り、会場はニンマリ。そして最後には、あらためてジブリスタッフの貢献と世界中のファンへの感謝を丁寧に伝えることを忘れませんでした。
賞の授与の後には、予告通りに門外不出の短編4本の上映が。世界中から会場に訪れた老若男女のジブリファンが、生きとし生けるものの豊かな表現の一瞬一瞬に息を呑み、作品を堪能している様子が伝わるような上映でした。タモリの名人芸が詰まった効果音(女の子のこぐ三輪車や毛虫の動きなど)の数々にも、笑いやどよめきが起きました。
そして同日夜には恒例の浜辺の映画館ことCinéma de la Plageで「Mini-nuit Ghibli」を実施。宮崎吾朗監督『ゲド戦記』と宮﨑駿監督『紅の豚』を上映し、夜更けまでカンヌがジブリフィーバーに包まれた一日でした。
宮崎吾朗氏は高畑勲作品も上映してほしかったとのことですが、これからもカンヌとの関係は深そうなので、そのような機会もきっとまた巡ってくるでしょう。なお、Cinéma de la Plageは5月25日まで毎晩21h30に開催。無料で誰でもアクセスできますので、お近くの方はぜひどうぞ。(瑞)
Cinéma de la Plageプログラム
www.cannes.com/fr/agenda/annee-2024/mai/cinema-de-la-plage.html