12月2日夜9時すぎ、パリのエッフェル塔、地下鉄ビル・アケム駅近くの路上で、ドイツ人観光客男性(23)がナイフで刺されて死亡した。犯人はビル・アケム橋を渡って16区側に行き、ほかの2人の男性を金槌で殴って怪我を負わせ、駆けつけた警官に逮捕された。
犯人はイラン人を両親に持つフランス生まれの男性(26)で、パリ郊外エッソンヌ県在住。両親は無信教だが、2015年に仏人ジハーディスト、マクシミリアン・チボーらにネット上で影響を受けてイスラム教徒となり、過激思想に染まったという。ラ・デファンスで刃物によるテロを計画したとして2016年に逮捕され、18年に禁固4年の判決を受けて20年に出所。司法監視下におかれ、国家安全保障上の要注意人物としてリストアップされていた。2016年7月のジャック・アメル司祭の殺害犯や、3年前の仏語教師サミュエル・パティの殺害犯とSNSでメッセージのやり取りをしていたと仏紙では報道されている。
今回の犯行の動機については、フランスはガザを攻撃するイスラエルの共犯であり、アフガニスタンやパレスチナでムスリムが死ぬのを見るのは耐えられないと供述したとされる。また、精神障害があるとして服役中とその後も治療を受けていたが、今年4月に司法関係の担当医が精神障害面の危険性はないとして治療を終了していた。今年10月には母親が、息子の閉じこもりがちな生活態度について警察に通報しており、精神状態の悪化も犯行の一因である可能性がある。
10月の仏語教師殺害犯に続き、国家安全保障上の要注意人物リストに登録されていた人物が犯行に及んだことで、右派の共和党や極右国民連合(RN)は政府のイスラム過激派テロへの対策の不備を強く批判。テロ予備軍には「安全保障のために留置」が必要と訴えた。ダルマナン内相は4日、精神科医のサポートに問題があったとして、司法が命じる精神科治療と並行して、県知事や警察などによる治療の「行政命令」を新設する意向だとした。
10月以降の中東情勢を受けてテロ警戒度が高まるなか、オリンピック開催を8ヵ月後に控えて治安面の不安が議論にのぼっている。いま国民議会で審議中の移民規制法案の規制強化にも影響を与えることは必至だろう。(し)