Le Ciel rouge
ハワイ、カナダ、ギリシャ、スペインと、地球の至るところで恐ろしい山火事のニュースが絶えない。そんな奇妙な年の予告のように、2023年2月のベルリン映画祭では、自然火災を背景とした映画が受賞を果たしている。
『Le Ciel rouge(赤い空)』は現代ドイツ映画を代表するベテラン監督、クリスティアン・ペツォールトの新作。『東ベルリンから来た女』(2012年)でベルリン映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞し、本作でもまた、同映画祭の第2席に当たる銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した。
バルト界沿岸、夏の避暑地。二人の男が別荘にやってくる。ここでレオン(トーマス・シューベルト)は小説の執筆を、友人のフェリックスは写真のポートフォリオ(作品集)を作成するのだ。別荘はフェリックスの叔母の家だが、すでに先客の影がある。映画はこの謎めくナディア(パウラ・ベーア)と、その愛人らしきライフセーバーを加え、4人の狭い人間関係を見つめる。
幕開けはやや能天気なバカンス映画にも思える。だが、登場人物が増えてからは、主人公の言動に身につまされるロメール風ドラマへ。仕事がはかどらぬストレスや焦りや、厄介な虚栄心を抱くレオンの心の揺れが生々しい。自由で魅力的なナディアの一挙一動も気にかかるようだ。ペツォールト作品の常連俳優、パウラ・ベーアのワンピースの赤さが目に沁みる。
やがて遠い空は山火事で赤く染まり、悲劇的かつ神話的なドラマの輪郭が浮き上がってくる。気がつけば深度の深い壮大な物語へと導かれてしまうだろう。自然の要素をテーマにした三部作になる予定で、前作は『水を抱く女』の「水」、本作が「火」。そうなると次作は「土」のようだ。
(瑞)9/6公開