大戦の狭間の1933年。文化の交差点サンジェルマン・デプレのカフェ・レ・ドゥマゴは、権威主義的なゴンクール賞に異議を唱えるべく、独創的な作品を顕揚する文学賞を創設。ジョルジュ・バタイユら13人の文学者が選んだ第一回の受賞作は、レイモン・クノーの処女作『はまむぎ』だった。
時は流れ2020年1月28日。世紀を超え愛される老舗カフェで、第87回ドゥマゴ賞受賞式が行われた。最終選考には歴史小説、現代の風刺小説、文学の逸話集などが残ったが、審査員の投票でジェローム・ガルサン著『Le dernier hiver du Cid』が頂点に立った。午後1時過ぎには冬の寒空のもと、カフェ前で受賞者を囲み、お約束の写真撮影で賑わった。
本作は36歳で夭折した名優ジェラール・フィリップの最後の数カ月の記録。著者はラジオ番組のホスト役やジャーナリストとして名高く、フィリップの遺児アンヌ=マリさんの夫でもある人物。単なる伝記を超え、知られざる伝説の俳優の素顔に、家族の視点から迫る第一級の資料にもなっている。2022年にフィリップ生誕100周年を控え再評価が必至のなか、本作の邦訳にも期待したい。(瑞)