1984年生まれ、パナ・パナヒ監督の初長編作品。苗字でピンときた方も多いだろうか。世界三大映画祭全てで受賞したイランの巨匠ジャファル・パナヒのご子息だ。「なんだ二世監督か」と侮るなかれ。映画を見れば、そんな意地悪な気持ちも吹き飛ぶはず。パパ・パナヒとは違った個性で、一作目にして見事に才能を花開かせている。
4人+1匹のロードムービー。メンバーは主人公の少年と年の離れた兄、不安げな母親、足にギプスをつけた父親、病気の犬。彼らを乗せた車はどこかへ向かうが、移動の目的は明かされない。単なる家族旅行ではなさそうだ。少年と一緒に、観客は奇妙な旅の一員となる。
本作のポスター(↓)のイメージそのままに、少年はエネルギーの塊だ。気持ち良いほどに子どもらしく、よく動きよく叫ぶ。こんな堂々とした少年をよく見つけたと思うが、人気テレビドラマに出演した人気者だとか。映画の成功は撮影当時6歳のこの小さな名優ライアン・サレクくんに寄るところも大きい(いろんな表情を見せる彼のインスタにも注目 www.instagram.com/rayan.sarlak.official/)。
車とイラン映画は分かち難い関係。父パナヒもキアロスタミも、車をサスペンスフルなドラマの舞台とした。本作はこの伝統を継ぎながらも、越境の思いを乗せ、より開放感を感じさせる。
イラン映画はつい映画通に勧めたくなるが、コメディでありホームドラマでもある本作は、良い意味で間口が広く、多くの人にお勧めできる作家映画の秀作だ。昨年のカンヌ映画祭監督週間で絶賛されるも無冠。パパと同じ新人賞カメラ・ドールを獲ってほしかったが、筋書き通りに行かないのもまた人生。だがロンドン映画祭で最優秀映画賞を受賞するなど、世界中で評判が轟(とどろ)いている。全国上映中。(瑞)