
事実は小説より奇なり。ここ数週間の生活はSF小説のなかに入り込んでしまったかのようだ。ここフランスで、外出するのに正当な理由を必要とし、警察の取り締まりを受けるようになると誰が想像しただろう。誰もがマスクを着けたがり、マスク不足から防護性の高いものは政府が徴集、マスク密売が横行することを…。
新型コロナウイルスがフランスで感染し始めた頃、政治家が「握手や挨拶のキスはやめましょう」と呼びかけ、肘と肘で挨拶する姿を笑って眺めていたのはつい数週間前のこと。今は握手などしようと思わなくなっている。感覚や慣習でさえ短期間でこんなに変わることにも驚くばかりだ。
カフェやバーが休業を強いられ以前より少し暗くなった夜の町。一見眠っているようだが医療関係者や、輸送や配達、農業、スーパー、ごみ収集…感染の可能性に身をさらしながらも、人々の生活に必要なものやサービスを供給する仕事に就く人が大勢いる。
近所のパン屋さんでは手袋をし、トングを使って客にパンを渡してくれるようになった。店内には客はひとりずつしか入れない。でも「やはり(感染は)不安よ」と胸に手をあてる店員さん。今の不自由な生活のなか、焼きたてのあったかいバゲットは格別のごちそうです。毎日、どうもありがとう。(六)
