Q:今度はご自分の店だから、計算はもちろんのこと1から10まで自分でなんでもしなきゃならない。
中西:まあそれはそうですが、パートナーがいるので非常に助かります。
Q:トゥールーズだと、生産者さんたちとの距離も縮まるんじゃないですか?
中西:できるだけそうしたいと思ってはいますが、トゥールーズだからこういう料理を作るのではなくて、パリとの差をあまり作らないで料理を作っていければと思っています。地元のいいものは出したいですが、やっぱり限界はあるでしょうね。普段お客さんが食べないものを出す方がいい。ただフォワグラの産地Gers県が近いので、フォワグラは地元のものをと漠然と考えてはいます。でもいいものはやっぱりパリに集まってきますよね?
Q:わかりませんよ。実際にあちらに住んだらいろいろな発見があるでしょう。
中西:そういう意味では楽しみです。今まで自分でやったことのないような料理スタイルになることもなんとなく見えているし、まあ10年以上前ですが一緒に仕事をしていた彼と仕事がまたできるし。
Q:お二人の年の頃は同じぐらいですか?
中西:同じ年です。二人とも「俺が、俺が」というような性格でもないので、うまくやっていけるんじゃないかなと思っています。
Q:そろそろ最後の質問にしなくちゃなりませんが、中西さんにとってお料理というのは何ですか?
中西:料理が何、というよりも料理が好きで自分は始めたわけではないし、フランス料理と偶然出会ってフランス料理店に勤めて、どんどん自分にとって面白くなっていった。まだ未熟ですけれど、もっと未熟だった自分が成長していく過程で料理も一緒に成長してきている。
Q:料理に育ててもらった、という感じですか?
中西:料理を通じて出会った人たち、今まで世話になったシェフたちや現場での厳しさからいろいろ学ばせてもらいました。料理を通じて、生きて行く難しさとか楽しさを教わったのかなあ。
Q:料理が中西さんの人生における教師、ということですか?
中西:そうかもしれないです。料理ってこれだけ真剣に取り組めば、食材ってこれだけ大切にすれば美味しくなる。物事ってやっぱりこうして真剣に取り組まないと到達できない。
Q:料理を通じてそういうことを自分で考えるようになった。
中西:そうだと思います。
Q:料理をしていなかったら何をしていたんだろう?
中西:いやー、何でしょう。漁師じゃないですか?
Q:漁師?
中西:いえ、美容師です(笑)。
Q:これまでに日本に戻って何かを始めようと思ったことはありますか?
中西:自分は結構現実主義なんでしょうね。日本で一緒に仕事をしていた人から「日本は大変だよ」と聞くとやっぱりいろいろな意味でこちらの方がいいのだろうと思います。バカンスや家族との時間も日本にいるよりはこっちでの方が絶対取れるとも思うし。まあこっちにいればいたで、いろいろなことはもちろんありますが。
Q:まあどこにいてもありますよね。ただ自分が住みたいと思う場所に住める人は幸せだと思います。
中西:こちらにいるということは、やっぱり自分でもこちらの方が好きなんだと思います。じゃなかったら、きっと帰るでしょうね。でも本当は日々の生活をするのが精一杯なんです(笑)。
Q:こうしてお話をうかがうと皆さん本当に色々なことを考えていらっしゃるんだな、と感心してしまいます。私なんて仕事をしながらおそらくあまり何も考えていない。
中西:そういう意味では、当然ですが料理のことを考える時間はやっぱり長いです。さっきも言いましたけれど、本当に「もう無理だ」と思うぐらいやらないと自信もつかないと思うし、本当に美味しいものは作れない。
Q:カウンターキッチンでお客さんを見ながら仕事をしたいとおっしゃるシェフにこれまで数人お会いしました。そういう気持ちはありますか?
中西:そういう店で働いたことがないのでわかりませんが、お客さんとの距離が近い方がいいとは思います。料理だけをするのではなく、食べている人の第一反応が見れたり、出てきた瞬間の反応が見れるのは面白いでしょうね。
Q:まあ十人十色、各人が自分に一番合った環境を見つけていく。みんなが同じだったらつまらない。
中西:それが個性になるということでしょう。自分の長所を知っているので、力を入れるポイントと抜くポイントを作っています。
Q:長所とはご自分の料理の?
中西:そうです。誰でも得意と苦手があると思うし、自分で力を入れなきゃならないポイントというのはありますよ。
Q:何ですか、中西さんのポイントって?
中西:秘密です(笑)。
Q:苦手といえば学校時代は鶏肉にも触れなかった。
中西:今では大好きです。ストレスという言葉が的確かどうかはわかりませんが、肉にストレスをかけないようにこれくらいの熱を与えて肉を起こしていく、というようなことはずいぶん訓練しました。訓練というか、勤めた店で火の前に立つことが多かったのでそこで学んだというか。今は前菜にしても華やかで綺麗なものが多いですが、それは自分とは違うスタイルだと思っています。メインややっぱりメインらしく出したいとか、単純に熱いものは熱いうちに食べてもらうとか、思うことはたくさんあります。
Q:いいなあ、新しい出発点に立っているという感じ。
中西:これからです。
Q:楽しみですね。お店が開いたら連絡ください。仲のいい友人がトゥールーズにいますので、ぜひ寄らせていただきます。
中西:来てください。でも、自分に本当にできるんでしょうかね。
Q:大丈夫ですよ。為せば成る、と言うじゃないですか。もし躓いても起き上がればいいし。
中西:まあ、相棒と自分は同い年で、お互いに違った経験を積んできたので、その経験がきっと僕らの武器になるのだと思います。
Q:引越し前のお忙しい中、長い間ありがとうございました。