「プラハの詩人」と呼ばれたチェコの写真家、ヨーゼフ・スデック(1896-1976)。開催中の彼の大回顧展を見ると、そう呼ばれたのが納得できる。
本展のタイトル 「窓から見た世界」のもとになった、アトリエの窓から撮ったシリーズがある。外の風景が窓ガラスの水滴で靄(もや)がかかったように見える写真は、控えめに鳴っている音楽のような味わいがある抒情的な作品だ。スデックの心情風景を前にすると、見ている側の心の水面にさざ波が走る。
夜間外出禁止令が出されたナチス支配下のプラハの夜を撮った作品は、映画の一場面のようなドラマ性と緊張感で目を引く。画面いっぱいに枝を広げた、傾いた大木を撮った夜の写真からは、木のセリフが聞こえてくるかのようだ。
10代の頃、製本業のかたわら写真を始めた。第一次大戦で徴兵され、戦場で右腕を負傷し、その後失った。復員後は美術に専念することを決意。国立美術学校に入学し、写真家として活動を始めた。
戸外で撮影するスデックを映したビデオがある。左手だけでどうやって仕事をしていたのかがわかる貴重な映像だ。淡々と撮影を準備する態度の中に、自分の道を行くだけ、という意志が感じられる。作品の質の高さもさることながら、人の生を考えるうえで得るものが多い展覧会である。(羽)
9月25日まで 火休
Jeu de Paume 1 place de la Concorde 8e
チュイルリー公園内